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満足同盟(7) / ダークシグナー・不満足(4) / 満足町(9) / 鬼柳以外(3) / 無手札の鬼神(6) / パラレル(2)

満足同盟



 珍しく生卵が手に入った。善意で目玉焼きをこさえてやれば、皿を前に鬼柳はほろほろと泣き始めた。
「嫁さんが欲しい」
「はあ?」
「メシ作ってくれて洗濯も掃除もしてくれる」
「お前には無理だろ」
 もうクロウでいいや、と最後に付け足される。クロウは黙って皿を取り上げた。
(おかあさん・クロウと鬼柳/13.10.3/『目玉焼き』『募集中』『まとめ』shindanmaker.com/14509)




 暇を持て余した鬼柳が突然ゲームを始めたことがある。果物の皮をできるだけ途切れないように剥ぐ。一番細く長く繋げられた者が勝ち、という地味なゲームだ。敗者への罰まで用意していた。
 確か罰の内容は。遊星はミカンを咀嚼する。お陰で鬼柳の唇は、いつも果物の爽やかな味だった。
(やくとく・遊→京/13.10.14(19)/『ミカン』『ペナルティ』『アブノーマル』shindanmaker.com/14509)




 薄くぼやけた朝陽の中、包丁を動かし鍋で湯を沸かし。クロウが甲斐甲斐しく朝食の準備を終えた頃になって、ようやくひょろりと長い人影が起き出してくる。
「おー、朝飯何」
「……あのなあ」
 振り向いて文句をつけようとすれば、すかさず唇を掠め取られた。うえ。煙草の味がした。
(だめなおとこ・クロウと鬼柳/13.10.18(19)/『濃厚』『包丁』『タバコ』shindanmaker.com/14509)




「肉が食いてぇ」
 赤錆びて歪んだ、もう何も走らない線路を並んで歩く。鬼柳は盛大に腹を鳴らしながら呟いていて、ぎらぎらした視線は路上の黒い鴉に向けられている。
「あれはやめとけ」
「……クロウを食うのはダメって?」
 とんだ深読みである。とりあえず一発殴っておいた。
(にくしょくなおとこ・クロウと鬼柳/13.10.24/『アブノーマル』『肉』『列車』shindanmaker.com/14509)




 これは酸い、これは熟し過ぎている。山盛りのミカンを剥いては一房だけ食し、勝手な感想で選別する。ジャックの振る舞いにクロウは勿体ないことをと怒鳴った。するとジャックは鬼柳にやるのだ、あいつはミカンが好きだと言っていたと返した。こうして二人でミカンを剥ぐ図が完成した。
(にくしょくなおとこ・クロウとジャック→鬼柳/13.10.26/『味覚』『戦友』『ミカン』shindanmaker.com/14509)




 大きな盥にシャボン玉がいくつも浮かぶ。血で汚れた服をざぶざぶと洗い、力の限り絞り、最後にパンと叩いて干す。タイミングを図ったように遊星が窓から顔を出す。目玉焼きができた、という声に誘われて部屋に戻り、遊星と向かい合って朝食を摂る。螺旋のようにこんな日を続けている。
(おわればおわる・遊京/13.10.9(13)/『シャボン玉』『目玉焼き』『螺旋』shindanmaker.com/14509)




 飲める水も、正規品の煙草も、このサテライトでは希少なものだ。鬼柳はそれらを惜しげもなくテーブルにぶちまけて、いつも通り壊れたソファで眠っている。荒れているのだ、ということを、遊星はどうしても認めたくない。目を背ければガラスのない窓の向こうに大きな虹がかかっていた。
(げんじつとうひ・遊京/13.10.30/『グラス』『タバコ』『虹』shindanmaker.com/14509)




ダークシグナー・不満足



 鬼柳が出歩くのは新月の夜だ。どんなにフードを目深に被っていてもお前はすぐにボロが出る。厳しく告げられ行動まで縛られて、結局塒にしている廃墟の周りをうろつくぐらいしかできない。出歩いたところで出会うのは猫ぐらいだ。会いてぇなあ。鬼柳の呟きは夜の空気に溶けて消える。
(くびわつき・鬼柳/13.10.27(29)/『国』『猫』『新月』shindanmaker.com/14509)




 生水は飲むな、風邪薬は、財布に紐は、カマキリが巣を高いところに作ったら大水が出るぞ。お節介を聞き流して何かおかしいと鬼柳は顔を上げた。
「大水に怯えるほど長居するつもりはねえぞ」
「チケット」
 目の前に差し出される紙切れ。遊星なりに真面目に案じてくれているらしい。
(かほご・遊京/13.10.1/『飛行機』『カマキリ』『風邪』shindanmaker.com/14509)




 宵の明星の下、鬼柳は鉱山に向けて走る馬車と引きずられる棺を見送る。雇い主の男が馴れ馴れしく肩を叩いたが、押しのけるようにして立ち去った。人混みを掻き分けた先には老婆がぽつんと立っていて、鬼柳に果実を差し出している。真っ赤なそれが目を刺して、鬼柳は黙ったまま俯いた。
(あかとざいあく・鬼柳/13.10.23/『老婆』『ゲーム』『金星』shindanmaker.com/14509)




「こんなところに来るはずじゃなかった」
 鬼柳が零した。こんな町散々だという話だろうか。勝手に流れてきたのはそっちでしょうに。飲み込んで適当に頷けば、鬼柳は暗い笑みを浮かべた。
「今が幸せだって話だ」
 ラモンは今更、この男を招いてしまった責任というものを感じた。
(てにおえない・ラモンと鬼柳/13.10.31/『責任』『景色』『予測』shindanmaker.com/14509)




満足町



 名を残す程度の決闘者になって、賞金はマーサのところに寄付とかして、ガキ共が大人になるのを見届けて、最後は、そうだな、春なら菜の花とか桜並木とか眺めながら茶でも飲むような爺さんになりてぇな。
 隣で鬼柳も頷いた。嬉しくて、少し寂しい。お互い大人になったものだと思う。
(さよならあおきひびよ・クロ京/13.10.7(12)/『菜の花』『桜並木』『お茶』shindanmaker.com/14509)




 テンションの上がった鬼柳には手がつけられない。路傍で吊るし売りされていた妙なTシャツを迷わず購入し、適当な店の試着室で早速着用している。
「デカすぎ、ワンピースみてぇ」
 カーテン越しに呟いているが、果たして着たまま歩くのだろうか。ズボンぐらいは穿いていて欲しい。
(うかれぽんち・クロ京/13.10.8(12)/『アブノーマル』『屋台』『カーテン』shindanmaker.com/14509)




 日付が変わる前だというのに、まだ街には人が溢れている。楽しそうな笑い声や店先から流れる流行歌の間をすり抜けながら、遊星はそっと空を仰いだ。あの町よりも随分と明るいネオ童実野の空は夜だというのに霞んでいる。温かいミルクを啜りながら鬼柳と見上げたあの星は見えない。
(きみをおもう・遊→京/13.10.10(13)/『残業』『流行』『金星』shindanmaker.com/14509)




 ノイズの走る画面越し、遊星がマグを持ち上げて傾ける。白い波がたぷんと揺れる。コーヒーじゃなくて牛乳だ。
『部下に子どもが生まれたんだ。名付け親になって欲しいと言われた』
 仕事も忙しくはないのだろう。へえと相槌を打ちながら、和やかに笑う遊星を、その平穏を嬉しく思う。
(いのり・遊←京/13.10.12(13)/『通信』『乳』『名前』shindanmaker.com/14509)




 洒落た石畳の通りに所狭しと屋台が並ぶ。シティの繁華街を歩きながら鬼柳は周囲を見回す。自分の町でも真似したいが、砂の多い土地なので衛生上難しいだろう。屋外に置いた鉄板で焼いた目玉焼きをバンズに乗せる。視覚にも楽しく味は絶品。今晩ニコたちに連絡して教えてやろうと思う。
(しさつ・鬼柳/13.10.15(19)/『目玉焼き』『屋台』『通信』shindanmaker.com/14509)




 鉱山町としてできたこの町では農作物の自給自足などあってないようなものだ。土地だって砂と石ばかりで痩せているし、とても農業などできそうにない。
 と、口酸っぱく言うのだが、鬼柳はどうしても菜園をやりたいらしい。泡のような脆い夢を見る土の国の王様に、ラモンは嘆息する。
(のうふのおうさま・ラモ→京/13.10.16(19)/『シャボン玉』『農業』『国』shindanmaker.com/14509)




 少し嵩張る封筒が鬼柳の元に届いた。差出人は不動遊星。振ってみるとカサカサ音がする。
 首を傾げつつ開けば小さな種が数粒。添付の手紙に曰く、家の花壇で採れた黄色い春の花の種とのこと。よければ埋めてみてくれと続いていた。咲くかどうかは別にして、遊星の気持ちを嬉しく思う。
(たねをまくひと・遊←京/13.10.19(20)/『未対応』『菜の花』『書簡』shindanmaker.com/14509)




 ある番組で町が取材されることとなりその関係で鬼柳はテレビ局を訪れた。局のビルに怖々踏み込めば、自動ドアの向こうに人影がある。女だった。女は一瞬目を瞠り、すぐに微笑む。
「私、夏期休暇を取ることにするわ」
 懐かしいケーキの匂い。
「逃避行のエスコート、いいかしら?」
(おてをどうぞ・鬼柳とミスティ/13.10.20/『女』『夏休み』『タルト』shindanmaker.com/14509)




 サテライトでもこんな桜が咲くようになったんだな。
鬼柳は囁いて跳ねるように並木道を歩く。夜桜と呼べば風流だが、遊星が手にしているのは懐中電灯と菓子類の入った袋だ。鬼柳も袋を提げているが、そちらには缶ビールが詰まっている。既に出来上がっている鬼柳に遊星は苦笑した。
(よいざくら・遊星と鬼柳/13.10.28(29)/『せんべい』『ランプ』『桜並木』shindanmaker.com/14509)




鬼柳以外



 液晶モニタを指さしてジャックがふんぞり返る。化石発掘だの調査員募集だの、馴染みがなさすぎる単語が踊っている。
「どうだクロウ、日当も出るし新種の化石を発掘したら命名権も貰えるのだぞ!」
「ああ……うん」
 ジャックの目は希望に満ちている。気の毒で、怒鳴る気力もない。
(くろうのくろうはくろうのくろう・クロウとジャック/13.10.2/『液晶』『骨』『募集中』 http://shindanmaker.com/14509)




 ざらざらした手触りの、少し厚手の封筒。遊星は首を傾げる。差出人不明の郵便物は目を引く鮮やかなブルー。住所などあってないようなこのサテライトでよくも正しく届いたものだ。宛先に書かれた自分の名に感心する。
 肝心の中身と差出人は、と封を切り、次の瞬間遊星は目を丸くした。
(けっこんほうこく・フィール遊星/13.10.4/『青』『書簡』『予測』 http://shindanmaker.com/14509)




 流行色だという菜の花色のマニキュアは、今クロウの元にある。気に入りのもので失くしては困るからと、少女から預けられたのだ。
 何となくかざして陽光に透かしてみる。きらきらと輝く鬼柳の瞳がこちらを見下ろしている、ような錯覚。乙女もかくやの妄想にクロウは一人頬を赤らめた。
(こいせよおとめ・クロウ/13.10.21/『菜の花』『薔薇色』『流行』http://shindanmaker.com/14509)




無手札の鬼神



 最近ジャックの帰りが遅い。
 女臭い、甘ったるい香水の匂いを染み込ませて帰ってくる。
 鬼柳は包丁を握り締めて俯く。まな板の上の食材たちが今夜も日を跨ぐまで帰らないだろう王者と、そんな王者に不慣れな料理を拵える鬼柳を嘲笑っている。妄想の女々しさに鬼柳はまた項垂れた。
(すれちがい・VJジャ京/13.10.5/『包丁』『自己暗示』『擬人化』http://shindanmaker.com/14509)




 決闘の取材にかこつけてモデルの真似事を要求される。過度に写真を撮られることにも、そのせいで予定よりも長い時間拘束されることにも慣れてしまった。
 以前は憤っていたジャックだが、今は悠々と受け入れている。家に帰れば泣きながら遅いと怒る男がいるからだ。あれは悪くない。
(いじめたい・VJジャ京/13.10.6(12)/『モデル』『残業』『ゆとり』http://shindanmaker.com/14509)




 フィールに押されて吹き飛ぶ。ままあることだ、己の体躯は未だ子どものそれで、つまり軽い。これが屋外だったりすると簡単に擦り傷を作ってしまう。
 嫌ならば攻撃を受ける前に勝てばいい。簡単だ。一番難しいのは泣きそうな顔で絆創膏を差し出すゼロ番を如何に宥めすかすかだった。
(じょうがいらんとう・VJジャ京/13.10.13/『難易度』『露天』『絆創膏』http://shindanmaker.com/14509)




「次の日曜は」
 茶碗に米をよそって手渡す水曜の朝、むっつりとした顔でジャックが切り出した。
「観劇に行くぞ」
「劇?」
「貴様も多少は教養を身に付けろ」
 と、言いながら不機嫌を崩さない。また養父に何かに文句をつけられて嫌々言い出したのだろう。とりあえず頷いておく。
(なしくずしでーと・VJジャ京/13.10.17(19)/『舞台』『日曜日』『茶碗』http://shindanmaker.com/14509)




 鬼柳は下衣を脱ぐ。質素な布地が足を滑り、予め着ていた大きめの上衣だけとなった。ワンピースというものに似ているかもしれない。
「何をしている」
 ジャックがむっつりとした顔で問うてきた。
「罰ゲームだ。今日の決闘で賭けをし」
 殴られた。ジャックは怒りも顕に去っていく。
(このあとしゅはんをなぐる・VJジャ京/13.10.22(23)/『布地』『ペナルティ』『幼児』http://shindanmaker.com/14509)




 隣で眠る男を起こさぬようベッドを抜け出し、鬼柳は朝食の支度を始める。今朝は窓の向こうに綺麗な虹が見えたので気分がいい。そうして支度が整ってから男を起こしに行く。おはようジャック。声をかけた途端布団の中に引き込まれた。ここから抜け出す頃には虹はもう消えているだろう。
(にちようびのあさ・VJジャ京/13.10.29(30)/『虹』『日曜日』『目玉焼き』http://shindanmaker.com/14509)




パラレル



 高校に進学するには受験という壁がある。なのにジャックは当然の顔をして、
「貴様もこの高校へ来るんだろう」
 などと言うものだから、鬼柳は必死で勉強した。
 発表の日、無事に自分の番号を見つけて鬼柳は表情を歪める。ジャックと一緒の高校生活は薔薇色だろうか、それとも。
(あんたんたる・VJジャ京(学パロ)/13.10.11(13)/『約束』『合格』『薔薇色』shindanmaker.com/14509)




 今日の水泳の授業はひたすらコースを往復させられてばかりだった。筋肉痛になりそうだと思いながら、鬼柳は携帯電話を手にする。更衣室で受け取ったメールを開き、眺め、大丈夫と一言だけ返信。
 本当に、大丈夫なのに。
 折り畳んで画面を閉じれば、ぱきんと割れるような音が響いた。
(ゆきちがう・VJジャ京(学パロ)/13.10.25(26)/『せんべい』『筋肉痛』『プール』shindanmaker.com/14509)








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