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満足同盟(3) / ダークシグナー・不満足(9) / 満足町(11) / 鬼柳以外(1) / 無手札の鬼神(6) / パラレル(1)

満足同盟



 遊星の青い目が、モニタの光をちかちかと照り返す。
 見知らぬアドレスからのメール。添付されたファイル。
 これは誰だ。
 違う、そんなはずはない。
 鬼柳の、はずが、
「……遊星」
 振り向けば鬼柳が立っている。
「今月の」
 疲れた笑顔で、札束で膨らんだ封筒を差し出した。
(いけない・遊星と鬼柳/13.8.8/『自己暗示』『青』『録画』shindanmaker.com/14509)




 満月の夜が怖いんだ。遊星は震えながら言った。誰彼かまわず襲ってしまう。だから満月の晩だけは、一人倉庫に鍵を掛けて籠っているんだと。
 そんなことがあるものか。鬼柳は遊星を安心させるように笑って、一晩を共にした。
 翌朝、シーツの真ん中で血塗れになった鬼柳が発見される。
(へまとふぃりあ・遊京/13.8.10/『無作為』『月』『変態』shindanmaker.com/14509)




 衛生状態の悪いサテライトで病が流行るのは珍しくない。人と物の流れが無秩序で捻れた場所だから尚更だ。
「だからって」
 クロウが眦を釣り上げる。背後には呆れ顔のジャックと、戸惑った様子の遊星もいる。
「そんなすぐに死ぬかっての!」
 風邪と判じられた鬼柳は布団に隠れた。
(おおげさちゃん・満足同盟/13.8.29/『無差別』『風邪』『流行』shindanmaker.com/14509)




ダークシグナー・不満足



 首を絞める、腹を抉る、突き落とす。
 結局、やっぱりカードだな、と思った。
 暗闇の中でひたすら考える。あのモンスターで、この罠で、そのSpスペルで。考えた時間だけ楽になっていく。
 殺せない、なんてことはない。大丈夫だ。遊星。殺してやる。
 背後で青い目の神様が嗤った。
(わたしはそうぞうする・鬼柳とアプ/13.8.2/『青』『難易度』『自己暗示』shindanmaker.com/14509)




 ベッドの上でゴロゴロ転がろうと足をバタつかせようと、調べ物に集中しているのかルドガーてんで意に介さない。青白い光に浮かび上がる後頭部に、指を拳銃の形にして、「ばーん」、見えない銃弾を撃ち込んでみた。狙い撃ち。ルドガーが振り向く。実にうるさそうな顔を笑ってやった。
(かまってちゃん・ルド←京/13.8.5/『銃弾』『青』『Web』shindanmaker.com/14509)




 指を噛むのが癖になっている。絆創膏なんて上等な物はないから、痕は赤黒く深く残る。今まさに上書きをして、がりり。
「ゲームの始まりだ……ゆうせえぇ…!」
 ギガントLのモニタに映るのはふたつのD・ホイール。興奮が抑えられない。血が吹き出す。鬼柳は鉄臭い味に酔っている。
(かまってちゃん・遊←京/13.8.6/『ゲーム』『液晶』『絆創膏』shindanmaker.com/14509)




 夜に浮かぶ乳白色の、真ん丸い。遊星にとって鬼柳はそういう、夜道を導いてくれるような存在だった。
 けれど月は欠ける。少しずつ闇の影に呑まれ、やがて弧を描く上弦。そうして遊星の耳に囁く。
「遊星、殺してやる」
 月から溢れる愛の言葉に、遊星はまだ戸惑うことしかできない。
(みかづき・遊京/13.8.14/『耳』『三日月』『乳』shindanmaker.com/14509)




 傷だらけの銀盤を、クロウはランプの明かりに透かして眺める。ぼろぼろのラベルには数年前の流行歌のタイトルが印字されている。
 人生という舞台を下りて、それでもまだ踊り続ける鬼柳。あいつはまだこの曲を覚えているだろうか。あんなバカをやったことも、忘れてしまっただろうか。
(せぴあいろ・クロ→京/13.8.16(17)/『ランプ』『流行』『舞台』shindanmaker.com/14509)




 真っ青な空に真っ白い線を引く。ぐんぐん高度を上げて遠ざかる機影を遊星は空港の屋上から見送っていた。フェンスに身を預け、小さな点になるまで見送る。
 鬼柳はこの旅で何を見つけるだろう。別れ際に握った手の温もりを見下ろす。もう二度と失われなければそれでいい。そう思った。
(たびだち・遊→京/13.8.19/『ぬくもり』『飛行機』『鉄棒』shindanmaker.com/14509)




 伸ばした手をすり抜けていく、白い鳥のようだと思った。
 遊星達は忘れたままでいいのだと言った。頷きながら、そうだろうか、と思った。
 無意識に追いかけて翼を鷲掴みにする。白くなんてない、どす黒い記憶。唯一光る名に縋っても、もう誰もいない。ルドガー、俺はどうしたらいい。
(ざんげ・ルド←京/13.8.3/『記憶』『白鳥』『意識』shindanmaker.com/14509)




 鮮やかな赤は銀糸を滑り、薄紅へと変わる。
 ターゲットを十字に捉えるアイサイト。その真ん中で可憐な紅に埋もれ、銃弾を心臓に抱いて死んでいる――はずでは、なかったのか。
「俺はどうやら、死神に好かれてるらしい」
 死に損ないは笑っている。
「殺すなら、カードで殺せよ?」
(しにぞこない・鬼柳/13.8.7/『桜並木』『銃弾』『サイト』shindanmaker.com/14509)




 広場で炸裂する爆竹がうるさく、閃光が眩しい。
 屋外に据えたテーブルでラモンは一人、肉を噛り尽くした骨を投げ捨る。視線はモニタへ。鬼柳京介、早々に自室へと引っ込んだ、今日の祭り騒ぎの主役の名がある。アクセス先は治安維持局、彼の名前の横には――獄中にて死亡、の文字。
(いんえい・ラモ→京/13.8.20/『爆竹』『Web』『骨』shindanmaker.com/14509)




満足町



 家のドアをくぐるなり長い手足がぐるりと巻きついてくる。未だに埋まらない身長差も、今日ばかりは気にならない。
「全勝おめでとう、クロウ」
 中継見てた、と付け足して、鬼柳はふわりと笑った。
「約束の」
「ん」
 こちらも機嫌よくねだってみれば、すぐに唇が落ちてくる。
(おいわい・クロ京/13.8.9/『約束』『ライブ』『手足』shindanmaker.com/14509)




 アルバムが一冊。頁を捲り適当に手を止める。
 古びた写真には面影。場面は公園か、ブランコに立つ遊星、鉄棒にぶら下がるクロウ、ジャングルジムに寄りかかるジャックが写っている。
 手にしたグラスを机に置いて、鬼柳は本格的に見入り始めた。自分の知らない彼らを愛しげに眺める。
(いつくしむ・鬼柳→幼馴染/13.8.12/『無作為』『鉄棒』『グラス』shindanmaker.com/14509)




 嵐のような、あるいは、台風一過、とでもいおうか。朝目が覚めて呆然とする程度には、昨晩の情交は激しかった。
「……絆創膏、いるか?」
 隣りに体を横たえた鬼柳は眉を下げて笑う。ジャックが何のことかと首を傾げれば、細い指で肩甲骨のあたりをなぞり、爪、と一言だけ返す。
(あさちゅん・ジャ京/13.8.15(17)/『風』『雨』『絆創膏』shindanmaker.com/14509)




 降りしきる雨の中傘も差さず、コートの裾が泥まみれになるのも厭わずに、鬼柳は白い石の前で膝をつく。
「ああ、やっと」
 銀糸の張り付く頬は花冷えの雨の中薔薇色。きゅうと寄せられた眉がふにゃりと下がる。
「会いに来たぜ……ルドガー」
 遊星は黙ったままその横顔を見つめる。
(さいかい・ルド←京←遊/13.8.18/『雨』『約束』『薔薇色』shindanmaker.com/14509)




 今日も鬼柳は書類のまとめ作業と戦う。嫌気が差せばアイスキャンディを頬張って休憩。ミルクの甘さが身に沁みる。隣りでは仕事を終わらせたラモンが夏期休暇!と騒いでいた。
 イラッとした鬼柳は食べかけのアイスをラモンの口に突っ込む。口の端から白濁を滴らせてラモンは沈黙した。
(ぎじふぇら・京ラモ京/13.8.21/『まとめ』『変態』『夏休み』shindanmaker.com/14509)




 モデルのようにすらりとした立ち姿。マーカーがまず目につくものの、顔立ちだってそこらの俳優に引けを取らないほど整っている。
 そんな男が自分の下で喘いで泣いてよがって、あまつさえ、
「クロウ、もっと」
 なんて蕩けた目で男を欲しがるのだから、世の中は不公平で、幸せだ。
(あんばらんす・クロ京/13.8.22/『変態』『モデル』『男』shindanmaker.com/14509)




 夏祭り、とは。砂ばかりの街並みにとりどりの屋台が並ぶ様が実に不思議だ。クロウはサテライトの廃材置き場から運んできた鉄棒を鬼柳へと預ける。
「似合わないけど、あいつらのためにやってやりたくてさ」
 鬼柳は穏やかな目で準備に勤しむ姉弟を眺めている。昔よりずっといい顔だ。
(ちちのかお・クロウと鬼柳/13.8.23(24)/『屋台』『鉄棒』『責任』shindanmaker.com/14509)




 たっぷりと揺れて、冷たすぎず熱すぎず。鬼柳にとって遊星はそういう存在だった。このまま溺れて溶けてもいいと思ってしまうほど、心地の良い抱擁。
 ただ、その安寧に浸ってしまう恐怖を鬼柳は身を以って知っている。捨てられた犬のような目で縋る遊星を、鬼柳は笑って押しのけた。
(へだたる・遊京/13.8.24/『リスク』『プール』『ぬくもり』shindanmaker.com/14509)




 鬼柳の笑顔は誰よりも、何よりも鮮やかに見える。どんな雑踏の中でも遊星はすぐ鬼柳を見つけることができた。もう三十路をとうに回っているはずだが、人を惹きつける魅力は衰えない。
 例えしわくちゃに老いても鬼柳は変わらないのだろう。その時まで隣りにいられればと、遊星は思う。
(ずっとみらいのはなし・遊京/13.8.25(26)/『保護色』『無差別』『老人』shindanmaker.com/14509)




 開いた扉の向こうは紫煙の世界だった。予想外の先制にゴホリと咳き込む。
「シティの会議で使う発表原稿、終わった」
 むっつりとした顔が署名入りの紙束を押し付けてくる。
「だったらなんでまだ吸ってんですか」
「口寂しい」
 もうすぐ会えるでしょうに。ラモンは肩を竦めた。
(くすぶる・ラモ→遊→京/13.8.27(28)/『原稿』『名前』『タバコ』shindanmaker.com/14509)




 結婚を前提に恋人募集中。俺ももう三十路だし、うん。
 酒精臭い息で零す鬼柳に、なら俺が立候補する、と返せば、鬼柳は目を丸くして、
「みにくいアヒルの子って感じ?」
「玉の輿という意味なら灰かぶりだろう。返事は」
「……合格、です」
 元より赤い顔を更に赤くして頷いた。
(じんせいばらいろ・遊京/13.8.31/『白鳥』『合格』『募集中』shindanmaker.com/14509)




鬼柳以外



 保存されたデータを整理している内に録画記録をひとつ見つけた。確認のために再生し、鼻白む。
 紫炎が地上絵を描くコース。自分のデュエルではなく、遊星と、もう一人。
 クロウはキーを操作する。削除を求める画面に浮かぶ、イエスオアノウ。迷わずカーソルを合わせ、キーを押した。
(ふざいのしょうめい・クロ→遊京/13.8.30/『録画』『戦友』『英語』 http://shindanmaker.com/14509)




無手札の鬼神



 女のようだと揶揄うつもりはない。が、鬼柳は非難と取ったらしく、あれ以来ずっと食パンを焼いている。
 なのでたまには、
「明日の朝はパンケーキにしろ」
 告げれば、鬼柳は嬉しそうに頷いた。黄色いバターが溶けていく様は嫌いではない。珈琲にもよく似合うし、鬼柳の顔も綻ぶ。
(はにーでいず・VJジャ京(どろりのうこう)/13.8.4/『女』『コーヒー』『黄』 http://shindanmaker.com/14509)




 池とかにある、ギコギコ漕ぐ白鳥のやつに、一度でいいから乗ってみたい。年甲斐のない話だと黙っていたのだが、散々責められた挙句吐かされ、まさかの実行。ジャックは平然としてギコギコしていた。
 夢じゃないのかと思ったが、脹脛の疼痛だけがあれは現実だったと伝えてきている。
(ふくらはぎからおしらせします・VJジャ京/13.8.11/『筋肉痛』『連絡』『白鳥』shindanmaker.com/14509)




 振り被る腕を後ろから押さえ、物陰に引っ張り込む。
「しばらく何の連絡もないと思えば」
 腕の中で鬼柳は棒切れを取り落とした。
「あの女、」
 以前言い寄ってきたモデルの女。無関心で切り捨てれば、俺を貶める内容をゴシップに話していた。 だからといって。溜め息が漏れた。
(らぶいずぶらいんど・VJジャ京/13.8.13/『モデル』『連絡』『女』shindanmaker.com/14509)




 ただの食器だ。粗品を下ろしてきたのか、格安で蚤の市に並んで売られていた。ジャックには似つかわしくないが、俺にはこれぐらいでちょうどいい安っぽい陶の茶碗。それでもふたつ、色違いでお揃いのそれを買ってきたのは、自分なりの挑戦だった。俗にいう夫婦茶碗、というやつ。
(めおと・VJジャ京/13.8.17/『勇気』『茶碗』『露天』shindanmaker.com/14509)




 目の前の大きなテーブルの上には淡い陽の色の液体が注がれたグラス。その向こうで義父となった男が、泰然と笑っている。深い色をしたカーテンが吹き込む風に煽られ、ばさばさと不穏に揺れていた。
 かつてのままではいけない。決闘とはまた別のカードを切らなければ、生き残れない。
(きじょうのせんじょう・ジャックとレクス/13.8.26(27)/『グラス』『カーテン』『記憶』shindanmaker.com/14509)




 夏空を閉じ込めた、もっと近く、手の届く場所で瞬くような青だった。記憶と錯覚にジャックは幼い頃の幻影を見る。
 珍しくラボの外に出た日のこと。空の下でもっと澄んだ青が笑んで、そして。
 思い出とともに青石の首飾りを机上へ戻す。あの男には飾りよりも首輪の方が似合うだろう。
(しょうけい・ジャック→鬼柳/13.8.27/『ネックレス』『青』『夏休み』shindanmaker.com/14509)




パラレル



「ムカデを初めて見たと言っていたんだが」
「ほー」
「今日はあめんぼあかいなって聞くけどアメンボって赤色か?と」
「ほう」
「哲学だなと思って色々と考えていたんだ」
「で、頭痛がしてきたって?」
「……」
「キョースケにマトモに取り合うなっての……もうお前寝てろ」
(てつがく・遊星とクロウ(現パロ)/13.8.1/『アメンボ』『頭痛』『ムカデ』shindanmaker.com/14509)








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