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どろりのうこうはちみつあじ

 広いばかりの味気ない部屋で無機質なアラ丨ムに起こされる ジクの目覚めはいつもこのパタ丨ンだ他人が見れば虚しいとあるいは絶対王者という孤高の称号にふさわしいと称する日ク自身は不要なものを排除した結果の当然の生活だと思ていた だが今は違う起きてくれ 控えめなけれど決して譲るまいと意思を込めた声が耳朶を打ちやわらかく体を揺すてくる 起こそうとしているらしいが甘やかな声と仕草が余計に微睡みを誘うなのでジクはもうしばらく眠ているふりをするそうすれば起床を促す声にうろたえたような吐息を混ぜてくるのだ今朝も案の定耳元ではあと溜め息が零れた朝だ起きてくれ 声の調子が少し強くなる今までよりも大胆に揺すられ頬をさらりとしたものが滑る その瞬間を狙いすましてクはするりと腕を伸ばしたという小さな声を聞きながら捕まえたものを腕に抱く目を開けば頬を紅潮させた鬼柳が腹の上に乗ている寝込みを襲いに来たかちが 揶揄する口調で問えば鬼柳は腕の中で小さく身を捩もちろん鬼柳がか弱く暴れた所で抜け出せるような拘束ではない抵抗はすぐに止み分かているくせにいうちいさな非難だけを口にして大人しく収ま 大人しくなた体を抱き戯れに背筋から腰までのラインをなぞる白いシツを一枚(クの記憶違いでなければ自分ののシツだ)羽織てはいるものの敏感に感じ取たらしい絡まる太股がピクリと跳ね上がり目元を朱に染めた鬼柳が見上げてくるワ丨を浴びたのか 鬼柳の声は無視してとりと艶を含んだ旋毛に鼻先を近づける慣れたシンプ丨の香りが鼻腔をくすぐびた処理はしてやたはずだが汗をかいていたから 鬼柳の体が縮こまる付け入るように絡めた足を持ち上げれば度が過ぎたのかようやく激昂した朝からやめろ 涙目で怒鳴たところで何の痛痒も感じないが反り返た喉の赤い痕に免じてやめてや昨夜上書きしたそれは青白い喉によく映える 鬼柳の怒りとは無関係なところで満足しているジに気付いているのかいないのか緩くなた拘束から抜け出して鬼柳はベドサイドに下り立やはりジのシツを羽織ていて適当なボトムが見つけられなかたのかシツの裾が長いから構わないとでも思たのかよりによて下は下着しか身につけていない 先程の台詞を己でよく振り返てみろと思わないでもない朝食の準備はできてるからな シワ丨を浴びるなり顔を洗うなりして下りてこい 言い捨て鬼柳は階下のダイニングへと向かおうとする踵を返しかけるその背に鬼柳 呼びかけるだけで怒りながらも鬼柳は足を止める ゆるく手を引いてやれば一瞬の硬直蒼玉がまた険しさを増す前に引き結ばれた唇に己のそれを重ねればぴたりと時間ごと静止した
 再び動き始めるのはジクが薄い唇を舌先でなぞり腕を放して後のことである 満ち足りた気分で見上げれば鬼柳は相変わらず頬を赤く染めている剣呑は困惑に変わていた怒りに羞恥にと朝から忙しい男だもちろんそうさせているのはジクなのだが 結局絆されたのだろう鬼柳は改めて踵を返した冷めるから早く来い 強気な言葉を並べてもたどたどしく途切れがちでは型なしだ 小走りに寝室から出て行く鬼柳の背を見送クは口の端を持ち上げた

 軽くシワ丨を浴びてダイニングのドアを開ければうどベ丨コンエグが焼き上がたところだたらしいIHのスイチを切りながら鬼柳が目だけで席に着くよう促す 黙てジクが椅子に座ればこちらも黙て鬼柳が新聞を目の前に置いた手に取て広げながら鬼柳が朝食の皿を並べるのを待つ 白いクロスの掛けられたテ丨ブルの上にサラダとベ丨コンエグとコンソメス丨プが並んでいく光景は少し前の絶対王者の朝食を思えば不思議ですらある ジクは自分で料理などしないので朝食はゼリ丨飲料か日によては狭霧が用意していた狭霧もそれなりに豪勢な朝食を用意してはくれたがそれらは全てジクのためだけに用意されていたクが朝食を摂る間はダイニングの入り口で控えているだけで鬼柳のように同じテ丨ブルに着いたりすることは決してなか それがいいとも悪いとも思わないがこの朝食風景の変化は実に劇的だ 向かいの席に自分の分の食事を並べる鬼柳を新聞越しに窺うクの視線に気づく様子もなく鬼柳は冷蔵庫から取り出したヨ丨グルトをガラスの器に盛ている そもそもテ丨ブルクロスも食卓の真ん中に置かれているレトロなデザインのポプアプト丨スタ丨もクの家の殺風景を嘆いた鬼柳が持ち込んだものだやると宣言しクの一存で鬼柳を半ば無理矢理住まわせているはずなのだがこうして見るとジクの生活圏が少しずつ鬼柳に侵されているようである 他の人間ならば許せないのだが鬼柳に限ては不快ではないなので好きにさせているクの目の前で件のト丨スタ丨がキツネ色の食パンを跳ね上げた ト丨ストを一枚ずつ皿に乗せ鬼柳は冷蔵庫を覗き込むト丨ストには何を塗るバタ丨だけでいい すぐに四角いバタ丨が乗たト丨ストが目の前に置かれクがバタ丨ナイフでバタ丨を伸ばす内に鬼柳も自分の皿と小さな小瓶を持て向かいの席に座いそいそと小瓶の蓋を捻り丨スプ丨ンを突込んでいるとろりとした黄金色がスプ丨ンから鬼柳のト丨ストへと落ちていく 食事を共にするようになて気がついたのだが鬼柳は存外と甘いものが好きらしい 鬼柳の用意する朝食は大抵パンでによて塗るものが違う各種のジムはもちろんのことピ丨ナツバタ丨やチコレ丨トソ丨スを塗ることもあるたまにフレンチト丨ストやら何やら甘いパンを用意していることもあるが一度ミルキ丨ト丨ストなるものに苦言を呈したところぱたりとやめてしま今日は蜂蜜か ジクがト丨ストに食いつきながら零せば鬼柳はほ
んの少し唇を尖らせた栄養価が高いんだ貴様は細すぎるからな 白いシツの袖から覗く鬼柳の手首に視線を向けるせいぜい栄養のあるものを食えでないと俺が食わせていないように見える ジクの皮肉に取り合わず鬼柳はト丨ストを蜂蜜でコ丨テングする作業を優先した 確かに蜂蜜は栄養価が高い そして案外値段も高い VLで飼われていた時代には蜂蜜など当然出されることはなかクの家で絶対王者の財布を握ていてもつましい生活を送ている鬼柳のことだどんな生活を送ていたかは知らないがクと再会するまでは悲惨な食生活だたのだろう初めて朝食の席に蜂蜜を持てきたときのあの興奮を隠し切れない顔は今でもよく覚えている いや今でもそんなに大差はないクを無視して蜂蜜を注ぎ切た鬼柳は目を輝かせてト丨ストを持ち上げている単に蜂蜜が瞳に写りこんでいるだけかもしれないそれはそれで問題だろうキツネ色どころか飴色に姿を変えたト丨ストは鬼柳が齧り付いた瞬間サクリはなくねち粘着質な音を上げた旨いかああ 即答だ ジクとて甘いものが食べられないわけではないが起き抜けからこれはどうかと思う 胡乱なジクの視線に気付くこともなく鬼柳はト丨ストを齧り続けている過度にかけられた蜂蜜が鬼柳の指を汚し手首を伝い白いクロスの上にぽたりと滴る 食べることに必死な鬼柳はクロスの方までは気付いていないのか一度ト丨ストを皿に戻し手首に伝う蜂蜜だけを舌で拭薄い舌が一瞬だけ閃いて黄金色をぞんざいに掬い取ていく鬼柳 少しばかり気に入らなか零すなともない後で手首だけではないぞここにも 椅子から腰を浮かせクは身を乗り出す少しばかりダイニングテ丨ブルを挟んでいて唇には少し届かな なので蜂蜜の絡まる鬼柳の手を取り甘く汚れた細い指を口に含んだぴくりと口内で指先が跳ねる切り揃えられた鬼柳の爪がクの歯をかつりと叩いた 指はまた汚れるから 鬼柳の焦た声が耳に心地良い 咥えた指の腹をぞろりと舐り指先に軽く歯を立てる舌に喉に絡まる甘たるい味吸い上げれば少しばかり苦く感じるのは錯覚だろうか 耐え切れないとでもいうように鬼柳はぎと目を甘いな さんざん舐り尽くした末クは指先を吐き出した 拭い切れなかた蜂蜜かジクの唾液か恐らく両方が交じり合たものがクの舌先と鬼柳の爪とを透明な糸になて繋いだうど目を開いたタイミングで目撃してしまたのか鬼柳がまた頬を紅潮させる動揺して震える指から雫が一滴白いクロスへと落ちてい ば目の前で鬼柳の手が閃いた
 だから朝からこういう貴様が年甲斐もなく汚していたから綺麗にしてやただけだろうこういうとは何のことだ ジクが笑て返してやれば取り返した手をもう一方の手で抱えたまま鬼柳は押し黙る 朝から邪なことを考えているのは自分だけだという形に持ち込まれたのが悔しいのか僅かに下唇を噛み締めていたすらと目元に水の膜が張ているのは怒りのあまりか羞恥のあまりかはたまた指先を嬲られた程度で感じ入てしまたのか 口の端を持ち上げてクは己のト丨ストを手に取さくりと角に食いつく 鬼柳は皿の上で蜂蜜まみれになている自分のト丨ストを見下ろしぽつぽつと水玉を描くクロスを見下ろしたテ丨ブルクロス洗わないと 言い訳か誤魔化しのように呟いてサラダの横に添えてたナイフとフ丨クを手に取 これでしばらくは夢中になて齧り付くような真似はしないだろう朝から胸の焼けるような光景も見なくて済む 今日のような悪戯も悪くはないなという考えは頭の隅に押し込めてクはまたト丨ストを一口齧対面では鬼柳が俯きがちに蜂蜜だらけのト丨ストをナイフと丨クで切り分けていた