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チョコリメント

鴻上手を出せなんだ 夏の衝突秋の共闘を越え反射的に手を出してしまう程度には距離が縮まているのだと思う良いか悪いかは別としてこの距離感を存外悪くないと思てしまている事実は苦しく捉えておかなければならないだろうの冷たさに人肌が恋しくなるからなど何の言い訳にもならないむしろ悪手だ そんな葛藤など知らぬ遊作は細い筒を差し出して了見の掌の上でとんとんと打ぽろりぽろりと色鮮やかな欠片が落ちてくる碁石のようなそれよりも小さい扁平な丸い固形物は白い手の中で粛と鎮座している黄緑ピンク数えるともなしに視認して顔を上げれ正しく了見の疑問を汲み取て遊作は答える学校で財前に貰たんだが良ければ食べてくれないかお前が貰たものだろう SOLテクノロジ丨重鎮の義妹息もつかせぬ攻めを得意とする決闘者ながらそうと悟らせない控えめな|女子高リアルを脳裏に描きながら了見の思考は更なる疑問で明滅するPlaymakerはまだしも藤木遊作と財前葵は同じ学級同じ部活に属する程度の仲でしかない彼女が遊作にささやかながら菓子を渡す理由などあるだろうかいやある了見も今朝方部下であり姉のような存在である滝からチコ菓子を渡されたばかりだ 開いたままのPCを確認する画面の隅では二月十四日の文字が佇んでいた作業を遮ることのない控えめなその表示が今は重しく自己を主張している財前には悪いがあまりこの手の食べ物は得意じないんだほう 甘いものが苦手か 予想外の遊作の言葉を心の片隅に書き付けている自分を認識しないまま了見は問う対する遊作は少しだけ俯い常から揺るがぬ翡翠の瞳に少しだけ影を宿した味じない形が少しサプリメントというか薬というか似ているから︱︱︱︱ 不足した肉体に無理から補わせるものを想起させるれが苦手だと言う 冷えていく浮ついた心が急速に落ちていく了見はそのよく回る思考で遊作の苦手の根幹にあるものに辿り着いてしまうドロ丨ンにより差し入れられるとにかく必要な栄養が取れればよいという食事楽しみなどはなく決闘次第でいくらでも削減されるそれ閉鎖空間で生命活動を維持させるため必ずといていいほど添えられていた錠剤めいたものを了見も見たことがある 了見の内心を賢らしくも悟たらしく遊作がそと指を伸ばしたすまない忘れてくれと囁いて赤い粒を取り上げ持ち去る︱︱その細い指に了見は食いついた鴻上 遊作の悲鳴など聞き入れない逃げようとする手首を捕らえ赤色のコ丨テングを歯で割れば遊作の指先を少しだけ犬歯が抉赤の中から零れるチコレ丨トの甘さが重く了見の舌に纏わりつく唾液に溶けていくそれを遊作の指と一緒に吸い上げた 遊作の手から伝わるちいさな震えは決闘の衝撃に跳ね飛ばされる十年前よりも随分と細やかだ苦いな けれどこの甘く苦い感覚はず遊作を了見を縛り続ける触れ合う距離も舌ですくう甘さも等しく苦くめてと了見は呑み下した遊作の目が細められて翡翠の目端にちいさく光が落ちている
    2019.2.11
    2019.2.11

くっついておねだり

 この瞬間がいちばん好きだ くついて溶け合うぐらいに抱き締め合汗で滑る肌をぴたりと重ね合わせるひんやりとした佇まいのおとこの熔け落ちそうなほどの熱に包まれて喘いでらりと遠のく意識を眼前のかんばせに注ぎ込むつくりものみたいな彼がその酷く整た顔を歪ませるこの刹那が遊作は好きだ 眉間にぎうと縦皺を刻んで長い睫毛を汗で濡らしながら伏せてにわかに歯を食いしばちいさく呻きながら一生懸命遊作を抱き締めているこの腕から抜け出すことなんて絶対にありえないのに逃がさないと吼え立てるこの傲慢幼気な必死遊作の中で奥へ奥へと貪欲に求めて押し上げて果てる感覚なんてないはずのうちがわにじわりと浸み込んでいく熱 詰めていた吐息の零れる音は艶めいていて遊作の首筋を擽る汗に濡れた肌を擽る感覚が堪らない胎の中を満たす熱さが外側の感覚とリンクして遊作も絶頂へと至るか細く啼いて一気に落ちるそれすら逃がさないと喘ぐかたちのままの唇に食いつかれる ぬるんと潜り込んで思う様荒らす見かけよりも厚い舌が熱い互いの唾液を混ぜ合脳天を刺す甘さに変わる甘美で遊作を縫い留めながらまだ胎の中に潜り込んだままの肉の象徴を奥へと擦りつけて雄の傲慢さで孕みもしない肉のうろを蹂躙していく筋の浮いた腕で遊作の身体を絡め取りながら上も下も中も隙間がないほどについている 蹂躙する傲慢さでけれど逃がさないと必死で この瞬間がいちばん好きだ この男の恐らく遊作以外の誰も見たことのないこの姿かわいいと思う 絶頂の余韻に浸るばかりで男ほどには巧く動かせない舌遊作も自ら絡ませるそれはきと小鳥が水を飲むようなささやかなものだろうけれどそんな微かな交歓が嬉しいと男は表情を緩ませるのだ広い背中に滑らせる手のひらを緩慢に持ち上げてうなじに後ろ髪に指を絡めればもとと吸いつかれた 舌と唇と指と腕ぽい交わりを続けやがてどちらともなく離れる覆い被さる男の舌からつうと滴る銀糸を舌で絡めて飲み込めば離れたばかりだというのに肩口に顔を埋められた ちいさな子どもに触れるように遊作は汗で湿た頭を撫でてやる実際幼い子どもに触れたことなどない指は酷く不器用だろうけれどそうすると男は甘えるように擦り寄てくるゆうさく いとけない仕草でけれど遊作の耳朶を擽り耳に直接吹き込まれる声は色を含んで滴るほどの欲を孕んでいるだ胎の中に呑み込んだものがぐずりと蠢いたもう一度 したい 響いている鼓膜を震わす低音が遊作の脳みそを掻き回す胎の中の熱が遊作の快感をそうけれどあまりにも無遠慮に押し上げて腰から背骨に向かてびりびりと響く頭の天辺から瞳が舌が痺れていくはくはくと喘ぐ吐息を甘く塞がれて視界がくらくらする薄暗がりに月明かりに似た仄かな青の瞳が瞬いていて縋るようにして許しを待ていた 胎の奥が疼く酷いおとこ遊作の喉笛に噛みつく肉食の暴虐に庇護を求めるいとけなさで追い立てるかわいいおとこ遊作だけのひと腹の奥がともとと疼いている胸の奥がちいさく痛む答える代わりに憎たらしいほどに整た鼻梁にやわく歯を立ててや
      2019.4.24

    白い実弾けた

     湿て重たいシ丨ツの上に投げ出された白い水風船を拾い上げる 固く縛られた口を摘まみもう一方の手で膨らんだ下部を突ついた爪の先がぐにりとラテクスに埋まりけれど決して破れることはないそのうち纏わりつく粘性に滑り虚しく何もないところを指差すだけになる もう一度風船を弄ぼうとすれば筋の浮いた手のひらが視界を横切この手はついさきまで遊作の腰を押さえ込んでいた手だいつでも凛としていて涼やかで性欲なんて知りませんみたいなきれいな顔をしているくせに獲物に食らいつく餓えた獣みたいにきつく遊作を押さえ込んでいた手痛い放して欲しいと身を捩ても全然緩める様子がなか思わずじと見つめてしまう 遊作の少しばかり恨めしげな視線に気づくことなく接照明の橙に薄らと汗の滲んだ赤いマ丨カ丨が浮かび上が長い指は白い水風船を取り上げる遊ぶな しかめ面すら美しいとはどういうことなのだろうか丨ツの波に泳ぎながら見上げる向こうで既に身を起こしている了見はスキンを見えない位置に放てしま遊作が気づかないうちにテに包んで処理してしまうのだろういつもそうだ遊作が知らないところでひとりでスマ丨トに済ませてしまう 取り上げられたことか強く掴まれたことか今日は何となく面白くない気分だずるりとシ丨ツの波紋を広げて這い了見の膝に肘を顎を乗せる目線と同じ高さ未だに着衣を纏わない下肢遊作の中を荒らしてくれた雄の欲望がある今はもう鎮まているそれを見つめながら指を伸ばして臍から下生えに続くラインを擽てやるこらきの 指先に跳ね返てくる感触は風船に比べるとずと硬この硬くてしなやかな腹が遊作のうちがわを蹂躙して艶かしくうねる様を目を細めて思い出す飲んでやろうか ちらりと上目遣いで了見を見つめる咎める言葉ばかり吐いていた唇は薄く開いて絶句しているようだ 少しだけ溜飲が下がて指に下生えを絡めて遊べばがてくと喉の鳴る音それから諦めたように重く落ちてくる溜め息どこで覚えたそんな台詞アダルト動画で君は未成年だろう 思わず噴き出した発言の滑稽には了見本人も気づいているようでしく白皙を歪めていた ハカ丨で保護者も存在しない遊作にと年齢によるフルタリング制限など意味はない何よりそもそも実際に身体を交えた直後に身体を暴いた本人がそんなことを口にするこれほどおかしなことはない 触りの良い柔らかな陰毛を弄びながら際どいラインまで触れる揶揄から出た言葉ではあるが別に冗談のつもりもないのだ遊作はあの風船の口を解いて中の白濁を吸い出して舌に絡めて飲み干して胃の中に収めて構わないむしろ遊作の知らないところで遊作の中に出された了見のものがただの芥として捨てられることを思えば何となく惜しくもある あれは了見が遊作のためにつくて注いだものなのに本当は女の身体に注いで次の命を生み出すための種をも残せない遊作の腹に惜しみなく注いでくれているのにどうせ何も残らないなら飲み干したい ぽつりと呟く了見のために何も残せないこの身ならせめて腹の中で溶かして自分の一部にしてしまいたい
     下生えに縋るだけの指を長い指が掬い上げる橙の薄明かりに了見の瞳が剣呑な光を宿しているのが見えるくりと開く唇が紡ぐ言葉はともすれば絶望的でどうしようもなくいとけなくて呆れるほどに愛おしい私はお前の中に万が一にも私の子を残すことがなくてよかたとている この剣呑は何度も見た過去に己にその根幹を刺す怒りをぶつけられたアバタ丨で夕暮れの橙の中で浮かべた光 それは内罰であり傲慢だ酷い執着心で遊作の身体を暴きながら過去の幻影に苛まれてこんなふうに自分ひとりで抱え込む鴻上の名の呪い彼だけの罪ではないものあるいは遊作が望むものをも連れ去てしまうそんな懊悩手放してしまえばいいのにけれど捨てられないのが鴻上了見という男だ ならば一緒に背負てもいい背負わせて欲しいと遊作は思う絶対に彼がその重荷に触れさせることはないと知りながらならばあの白を腹に根付かせて続く赤い糸で縛てしまいたいのにそれも叶わないこの細胞に溶かすことすら許してくれない 結局酷い男なのだ未成年と姦淫をするような悪い男 そんな男に身体を許して自責を知りながら迫る自分も大概悪い結局どこまでも似たもの同士だと思いながら遊作は目の前の膝頭にあまく噛みついた薄い歯形以外何も残さないけれど
      2019.5.7

    凸凹にキス

     息が止まるほど呼吸を止めるほど貪り合た身体の残滓まで余さず寄越さず全て自分のものであると主張するかのように温かい口内の奥の奥まで侵入り込む絡め取飲み干す落としていた瞼を持ち上げて窺えば弄ばれるまま子猫のような声を喉から零す遊作のとろりと蕩けた表情がすぐ目の前にあるりない酸素と倦怠感のまま意識を取りこぼす寸前にれど健気に了見に縋りつく指 侵略だ慈しむと呼ぶには暴虐に過ぎ愛撫と取るには痛みが奔るそれでも遊作は甘受して一身に受け止めるその健気を悦ぶと同時に憤る了見の相反する感情を勝手を知ているだろうにただ受け入れる欲しがる手を伸ばす 噛みついてた唇を解放してやればと落ちる声は名残を惜しむものだ細めていた瞳が酷く残念がて了見を見上げる緩んで零れる舌先がつうと水ぽい銀糸で了見に繋がていたそれを辿るように遊作はちいさく背筋を伸ばし了見の口の端に唇だけで触れるちうと微かな音これまでの侵略に酷くいとけなく響いたうけん舌足らずな囁きは確かな熱を持ている もう寝てしまえと甘えつく身体を押し戻した自身は遊作を振り返ることもなくシ丨ツの中に潜り込むするとてきた熱が了見を引繰り返す向けていた背中が反転して向き合う格好にそう視認する間もなく薄い胸の中に抱き込まれた 仕方ないなそんな声が髪を擽母が子にするよう先までの淫らとは随分と遠い温もりが了見の剥き出しの背に触れる縋りついた爪痕なぞは知らぬげにあやす仕草で撫でさするとんとんとちいさな律動を刻んでいる大丈夫だ大丈夫謳う声は何のつもりなのか欲を灯していたはずの火がすかり熾火になていること了見を眠りに誘ていることもわかるけれど何が仕方ないのか大丈夫なのか遊作の考えがひとつもわからない 口づけひとつでこんなにすれ違うというのに同じシ丨ツの中夜の底にたりと寄り添てくついて存在しているこの矛盾が藤木遊作という人間が了見にはやはり心底理解できないけれど誘い込まれた胸に頬を寄せ遊作の心音に耳を澄ませて目を閉じて彼の匂いを吸い込みながら熱を分け合て︱︱この夜を愛おしいと呼ぶのだろう囁く声が解ける寝息を耳に心地良く思いなが了見も散食い散らかした身体をゆくりと抱き締め
      2019.5.23

    さよなら罪悪またきて至福

      ※未来とかロスト事件被害者とかを捏造したし諸々注意

     抜けるような青に水気を湛えた白が浮かぶ蝉時雨が降り注ぐ 見上げれば咽せるほどの緑がそよぎ波のように光が揺れているその眩しさに目を細めると同時に首筋をつうと汗が伝本当は日傘を差したかたけれど手荷物が多いからとやめてしまたことを少しだけ後悔するれども代わりにと夫から念入りに被せられた真白い帽子はつばが広く何よりも彼が贈てくれたものだからお気に入りだ 降り注ぐ時雨の下右手では木桶を左手では花束をしかりと支える舗装されたコンクリ丨トの小道では足下に熱気がわだかまる桶の中でちいさく跳ねる水音は清涼感をもたらしてくれるがその分零さないよう気をつけなければならないグラジオラスの優しい赤が目の前で揺れくりと熱い坂道を登てゆく 登るにつれ咽せる緑の匂いから薄らとした潮の匂いへ蝉の声から波の音へと様変わりしてゆく目的の場所は山の中腹見晴らしのよい開けた場所にあ緑差す道を抜ければ遠くは寄せて返す海原そして夏の陽光にも揺るがず立ち並ぶ白や灰や黒の墓石が立ち並んでいる 墓参の時期ではなく適した時間でもない今日の予定を告げたとき暑すぎるだろうやめておけと夫も渋い顔をしていたそれでも最も海が輝いて見えるこの時間に参りたいのだと告げれば結局白い帽子を被せてくれた だから︱︱自分以外の誰かがいるとは思わなかれも自分の家の墓の前に 夏とは対極の姿をしていた浅黒い肌こそ日差しの存在を思わせるがと御影石を見つめる瞳も日除けもなく陽に晒された髪も寒色を帯びている静かに積もる冬を思わせる佇まいでともすれば陽炎の幻を見たかと思たかも知れないすらりとした足の先にわだかまる濃い影だけが彼が夏の中に確かに実在しているのだと思わせたあの 右手の先でちいさく水が跳ねた歩み寄てみればは本当にまるで薄紙一枚向こうの世界にいるかのようだこちらの声に気づいて静かに上がる顔はこの水気を纏う空気の中汗一つ浮かべていない 白い帽子のもたらす淡い影からと男を見上げるほんの刹那瞠目した彼はすぐに緩んで溶けるような微笑を浮かべた非常に目鼻立ちの良い顔のつくりをしている男は顔の造作に違わない耳に心地良いバリトンで柔い声を熱気に乗せたどうもこんにちはこんにちはあのこちらの墓にお参りに そと頭を下げそのまま傾ける白い帽子のつばの向こうに男の影が揺れる参りにいえそうですね顔を見せにといたところですが 供えるものも持たずに不作法であまり申し訳なさそうでもなく自嘲して男は目を細めた 随分と曖昧な物言いをする男だ彼の背を追い越し入道雲がゆくりと流れてゆく 墓前の玉砂利の上に水桶を下ろすたぷんと揺れる水の波紋が広がる私はこちらの嫁なのですけれど失礼でしたらごめんなさい貴方のことを存じ上げなくてどちらかの縁者の方でしうかいえ私は貴女の夫君と知らない仲ではない度の者ですこちらこそ突然お邪魔して失礼をああいえそんなどなたであれ故人を悼むのに理由も遠慮も要らないと思いますから 緩く吹き抜ける潮風にグラジオラスがゆらりと赤を揺らめかせた対称に青を帯びた男は目を細めて薄く唇を
    開く潮騒に蝉時雨に低い声が溶けてゆく悼むと呼んでもいいものでしうか何をしても許されるとは思いませんしそうしようとも思いませんがけれど最期に顔を見せるぐらいは筋ではないかと思たんですもう一度夫君に殴られるほどの覚悟はありませんでしたがここで貴女に会えて良かと怒ると思いますが尊さんによろしくお伝えください 夏の幻のようだ澄み切たきれいな微笑みを浮かべて男はちいさく頭を下げるそのままこちらを振り返ることもせず緑の被さる蝉時雨の中山を下る小道へと進んでゆく すれ違いざま白檀の香りがした輝かしい海の青とはまた異なると深い深い青を連れて男の背は坂道の向こうへ消えてゆく 潮騒が囁いた白い帽子のつばを結わえて肩へと流した三つ編みをふわりと遊ばせる風に鮮烈に炎のようにけれど優しい赤が男の背を見送後に残されたのは自分と花も線香も供えられることのないまま黙り込む墓石だけだ

     思わず声が漏れた僅かな休憩時間の合間に急ぎと気を逸らせていたのがよくなかよく磨かれたコンビニの床に落ちた雑誌を拾い上げるべく身を屈め︱︱ようとしたところで自分以外の手が伸びた浅黒い肌節の目立つ男らしい手長い指その親指の付け根には変わた赤いタト丨を刻んでいるどうぞすいませんありがとうございます 差し出された雑誌を受け取るそこでようやと見上げた相手の顔に刹那言葉を失モデルだろうかやたらと見目のよい男だ見慣れたコンビニの内装から浮き上て見える 雑誌の表紙をはたきながらと衆目を引いて止まないだろう男から視線を逸らすところが追撃があエルモンスタ丨ズお好きなんですね あああそうですね 手にした雑誌はデエルモンスタ丨ズの専門誌だ今やトワ丨ク上主にリンクヴレインズでのプレイが主流だがコンビニの小さな書架に置かれる程度には細酔狂で熱心なフンが買い支え刊行され続けている雑誌である 紙面にはカ丨ド情報や大会に関する記事だけでなくンクヴレインズ内の決闘者たちの特集や名試合なども取り上げられている今月号は今や伝説とも囁かれるPlaymakerの特集に大きく頁が割かれ表紙にも大きく彼の名前が踊ていた定期購読者以外の層にも需要があると見て売り切れも必至かと思い雑誌を取り落とす程度に焦ていた次第である無論ここで急ぎ買わずとも年間購読している三部が帰宅すれば届いているはずだがそれはそれであるそれはよか 存在を失念しかけていた男の声にはとするまだ隣に立ち続けている男は微笑を浮かべていたが何故か背筋にひやりとしたものが奔恐らく外気温に反して過剰に低く設定された空調のせいではないだろう コンビニでたまたま落とした雑誌を拾てもらそんなこともあるだろう雑誌のタイトルに関して軽く声をかけられたそんなことも珍しくはあるがあるかも知れない例えば拾い主も重度の同好の士だならば話しかけたくもなるのかも知れない
     けれどこれはないだろう貴方はデエルが嫌いかも知れないと思ていましたか 見知らぬ相手がそんな既知のようなことを言うはずがない しかも︱︱確かに幼い頃はデエルモンスタ丨ズに関してただ好きという感情だけではない多大に思うところがあ嫌悪や恐怖に近いものもあたかも知れないけれど今は違うそしてかつての自分の感情を身内以外の人間に語たことはない誰もそんなこと知るはずがない 思わず言葉を失う意に介す様子もない男は書架の向こうの町並みを見つめていた炎天下のビルの隙間アスルトの上を人波がうねている黒い日傘の下顔を伏せる栗色の髪の女性と身を寄せて彼女の肩を抱く猫のような目をした女性の姿が見えた 喪服に似た黒いワンピ丨スの裾がアスフルトの上に影を踊らせている主たちはその陽気さとはほど遠くうよう泣き歩きまたそれを支えているように見えるの空気に水の軌跡を曳いているのが見えた最期に会えて良かそれでは 何も言えないうちに奇妙な男は踵を返したライトグレ丨のジトの背は自動ドアから灼熱の外界へ吐き出されて人並みに溶けていく黒い服の女性たちもとうに流されて見えなくなている まるで狐につままれたような気持ちで立ち尽くす思わず力のこもる指の先で雑誌の表紙が柔く歪んだPlaymaker失踪から早︱︱彼の戦術戦績その軌跡の全てを余さず︱︱ そんな見出しが躍る隣では在りし日の英雄のアバタ丨がじと男の消えた先を見つめている 頬を外から流れ込む温い風がそと撫でてい鼻先には白檀の香りが掠めてすぐに消えてゆく

     暑い熱い目の前が熱気で歪んで見える 一番気温の高い時間帯も過ぎ車内ク丨ラ丨も天井部に取り付けた扇風機も唸りを上げてフル稼働しているがれでも暑いものは暑いし熱いものは熱いワゴンの前面は開け放たれているから冷気は逃げていくし何より目の前にじうじうと油と肉を焦がす鉄板があるのだから涼しくなりようはずもなか 額を滑る汗が鉄板に落ちる前に顔を上げる日陰の少ないパブリクビ丨イングではいつもは倦んで群れる人たちも刺すほどの日差しに俯きがちに波のように過ぎてい大型の街頭モニタも今はデエルの中継を映してはいない代わりに雑誌の広告が流れていた老舗のデエル専門誌今月号の特集はリンクヴレインズから姿を消した︱︱トドグを二つそれとコ丨ラをテイクアウトではいただいま︱︱ 何年もこの店を手伝ううちに客の応対には自然に声が出るようにな腕で汗を拭てソ丨セ丨ジをトングに挟み客に向かて笑みを浮かべるここまでは本当に自然にできるようになたのだ けれど浮かべた笑みはこの熱気の中凍りついた 何度か見たことのある男だ言葉を交わした覚えはあまりない一方的にかけられる言葉は真摯なものだ自分には答えることはできなか兄やもう一人の背に隠れて声や音を耳に入れるので精一杯だそれてろくに覚えていない 舌が凍りついたように動かない喉がからからに乾いているそれでも手だけはソ丨セ丨ジを焼きバンズに野菜
    を挟みコ丨ラをプラスチクカプに注ぎマスコラクタ丨ばかりが陽気な紙袋を用意していく はくはくと喘いでも果たして目の前の男は気づいていないのだろうかてこちらの手つきを見つめていたぎこちないながらも客とやり取りができるようになたという矜持にこの特異な男がこの場所を訪れた意味を考え喋るにはあまりに不向きな口が消え入るような声を絞り出す兄は今日は不在だろうている彼がどこへ行ているのかも 縺れる声は凛として掬い上げられた バンズに焼き上がたばかりのソ丨セ丨ジを挟むトドグを紙で包みそれを二つ並べるそしてちらりと男へ視線を向ける そうだ兄の行方をこの男が知らないはずがない兄も他の誰も彼も今日は皆同じ場所へ行ている自分は彼の背中に庇われたことこそあれど直接言葉を交わしたことはないからここで留守番をしているだけだ自分に語りかける男を遮りあるいは間に立ていた彼は誰よりもこの男を親しく呼んでいた 思い出すと同時に疑問が生まれるどうしてこの男は兄たちの行た場所にいないのかここにいるのか その疑問も泡のように弾けて消えた私は最期に君に会いに来たんだ 夏空に抜けるような澄んだ微笑み 言葉を失う深く問うこともできないままできあがたホトドグを二つ紙袋に詰めコ丨ラのカプと共に渡す代金は既にカウンタ丨に置かれていたありがとうまるで普通の客のようにホトドグを受け取て男は踵を返す君にとては迷惑どころではないだろうが話せて良か それでは一方的に告げて立ち去る男にと言葉を取り戻した自分がかけられる言葉などあるはずもない ただ︱︱ふと思い出した彼が客としてここを訪れ兄が応対する様を傍らで見たことは何度かある 彼はただの一度もコ丨ラなんて頼まなか 俯く人の波に消える彼をて見送るちかちかと赤の混じり始めた陽光の下影が長く伸びている硝子片のような光が彼の輪郭を彩そして消えていく 街頭モニタは相変わらず消えた英雄を特集する雑誌の広告を謳ていた

     夕陽の溶ける赤と藍の狭間長く伸びる自分の影の黒硝子の向こうにうねる海の暗さ表面にまぶされた陽光の名残が星の輝きを帯び始めている 誰かが亡くなたのは随分と前のことなのに未だにこの家には死の影が蹲ているようだそんな考えを笑背もたれの深い椅子に身を投げる傍らのテ丨ブルにはまだ温かいホトドグと号泣したようにびしびし汗を掻いたコ丨ラのカそして流麗な文字の綴られた一枚の便箋 送り主にしては意外なた一枚ほんの数行には長年を共にした感謝が淡しかし愛情深く綴られてい感謝するのはこちらの方だ恨まれても同然のはずの彼は自分を主と呼んでよく従てくれた奇特なことだとはもう思わない彼の忠義心は本物だ最期の我儘をこうして許してくれる程度には 便箋の傍らにはグラスがひとつ自分はコ丨ラは飲まない舌の上で弾けるいかにも人工的な甘味が苦手だこんなものをいつも好んで︱︱好んでいたのだろうかくらか鈍磨した味覚ではただの慣習で口にしていただけか
    も知れない︱︱飲んでいたのはあれだ眉を顰めればお前も飲んでみろと頼んでもいないのにストロ丨を押しつけてきて同じ黒でも苦みの深い珈琲を好む自分を信じられないといた顔で見つめていたこちらからすれば信じられないのはお前の方だ だが今日グラスに注がれた水は黒ではない硝子の向こう星が落ち夕陽が溶ける前の海に似た青をしている あれはどんな顔をするだろうか やはり信じられないとでも言いたげな顔をするだろうかそれとも眉を顰めるだろうかあるいは頬を張られるかも知れないあるいは︱︱俺も同じものをとは言わないだろうか もう随分と前に確かめることはできなくなたのだけれど ホトドグを一口だけ囓る店番をしていた彼は兄にも遜色ないほどにソ丨セ丨ジを焼き上げているがどうしたて味気なく思えた理由はわかている焼き上げたのはあれではないし隣にもあれがいない ここまで随分と長か寒か時間をかけてして今日自分の背負た罪の名残がそれでも彼らの人生を歩き始めていることを確かめることができたある者は妻を迎えある者は日常の中でも決闘を好み続けある者は友に寄り添いある者は一人で立ち上がることを始めある者は長年を尽くした主人と別れを告げた だからお前だけがいない だからもういいだろう ホトドグを包み紙の上に戻し青い水に満たされたグラスを手に取夕陽に透かしてみればちかちかと星が散ているもう少し時を待てばもしかすれば海に浮かぶ光の道を見られたのかも知れないお前との未来を繋げた決闘に見たあの星屑の道が けれどその道の先にお前はいない だから飲み干してしまおう永遠に私の中で光り輝いそして導いてくれればいい︱︱遊作 愛すべき名を囁く声と共に飲み干した 手からグラスが滑り落ちる遠く星の砕ける音を聞く新たに生まれた星の産声生まれたての光ちいさな輝きを追いながら闇の中へと意識を委ねる︱︱Into the ■■■■■■ 懐かしい声が耳元で囁いた

     白い部屋だ 何も構築されていない新な世界自分だけがいる自分しかいない果てはなく始まりもないような白の世了見 あの日の姿のまま懐かしい運命が佇んでいる 自分だけがいる自分しかいない 遊作は笑ていた呆れたように困たように眉尻を下げてうがないなとでも言いたげにああお前のそんな顔はあまり見られなかたなと思う駄目だろうお前はこんなところにまで 細い指が手に触れてくるくにこの世に存在しないはずの遊作の指は温かあるいは自分の方が氷のように冷たいのだろうか 柔らかな感触温かな肌まるで生きているようにかに目の前に︱︱存在するだから︱︱勝手で悪いと思たんだが俺はここにいる でもお前の方がよぽど勝手だだからこれでおあいこだろう 悪戯に笑いながら遊作はそと身を寄せてきた
    と背を伸ばしてもちろんこの仕草の意味するところはている ここはどこで目の前の愛しい存在が何か今の自分は何なのか そんな疑問にわざとらしく目を伏せて了見はそと遊作の唇に己のそれを重ねる刺すような甘みも沈むような苦みも眠るような毒もないどこまでも透明な口づけ刹那が永遠になていく
      2019.5.20
      2019.6.24 up