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もぐもぐ! ごっくん!

    ※タイトルでお察し下さい、というアウトな単語満載につきご注意

「色気がないわ!」
 唐突にそれである。
 カッと目を見開いてまで叫ぶことだろうかと内心首を捻りつつ、しかし海馬の奇行は今に始まったことではないと城之内は即座に納得する。
「何がだよ、つーかンなもん俺に期待すんな」
 ので、城之内は今しがた脱ぎ捨てたばかりのジーンズと下着をベッドの下に蹴り落とした。やたら質の良い絨毯の上に安物の自分の服がとぐろを巻く様を見届けることは果たして叶わない。唐突に足首を掴まれ尻が浮く勢いで引っ張られたからだ。
「ぅ、わ……!?
 勢いのまにまに頭がぐらりと傾ぎ、妙な角度で落ちた。ぼふんと柔らかく衝撃を受ける音が耳に大きく響く。これが城之内の家にあるような煎餅布団であれば確実に首を痛めていただろう。
 がばりと上体を起こす。柔らかすぎる布団に肘が沈んでバランスを崩すがめげない。睨みつけた先の青は品定めでもしているのかという鋭さで城之内を見下ろしていた。
「やり直しを要求する」
「はぁ?」
「仮にも恋人とのセックスでそんなに堂々と脱ぐ奴がいるか」
 既にベッドの上である。シャツはベッドに向かう途中でその辺に放り投げたし、ジーンズと下着はさっき蹴り落としたばかりだ。残る靴下さえ脱いでしまえば後は縺れ合って噛みつきあってイッてイかせてイかされて終わりだ。
 ここまで臨戦態勢を整えたというのにもう一度脱ぎ散らかした服を着て社長さんが満足なさるような脱ぎ方をしろというのか。色気がないなどと罵る海馬こそ空気を読むべきだ。萎える。城之内は腹の底をふつふつと沸かせる。気分によってはノリノリで脱げと命令してくる男はさあ服を着ろと言わんばかりに城之内を睨みつけていた。
「何が色気だ、このあいだ部屋の電気点けたまま人のケツの穴ガン見しやがったくせに」
「愚か者が。それとこれとは別だ」
 悪びれもなく尊大に返され、城之内は腹の底で煮える感情がじわじわと水位を上げるのを感じた。
 そもそも海馬はセックスに夢を見過ぎているきらいがある。腐っても大企業の社長様であるからしてスマート、且つ爛れた女性関係を重ねてきたのだろうと城之内は勝手に予測しているのだが、にしては妙にテンプレートに沿った反応を城之内に求めるのだ。愛撫の手順を城之内の体が覚え込む程度の回数をこなしているのであるからして、いい加減色々な意味で落ち着いてきてもいいはずだというのに。
 最初のセックスの腹が立つほど手慣れた前戯からして童貞という可能性は消えている。やはり頭のネジが吹っ飛んで砕け散った性格のせいなのか、しかし反応を求められる城之内からすれば迷惑極まりない。そんなテンションの高いセックスが続けられるか。
「じゃあ何か。テメーは俺に恥じらいながら脱げっつーのか」
「恥じらえとまでは言わん。慎みを持てと言っている」
 その二つの違いが城之内にはさっぱり分からない。しかし海馬はいかにもこうあるべきという態度を崩さない。
 沸騰する水面は城之内の中で上昇を続ける。前提として城之内も海馬も男なのだ。男を相手に慎んで裸身を晒すほうがおかしい。そして対等であるはずなのに文句も命令口調も理不尽な要求も尽きることがない海馬はもっとおかしい。
「……テメーは女相手のつもりでいんのか」
 ぼろりと転がり出た声は、自分の声ながら予想以上に低かった。
 口にしてみて納得する。なるほどだから腹が立つのかと城之内は怒りとは一線を隔したところですとんと落ちたものをまじまじと眺める。海馬は処女のように、とまではいかないかもしれないが、一端の女のように恥じらってなすがままに組み敷かれてあんあんないてほしいのか。
 だったら最初から女とすればいいじゃねえか。と、口に出さなかったのは煮え滾ったなにかが零れそうだったからで、決して悔しいとか泣きたいとかそういう感情ではないはずだ。
 果たして海馬が城之内本人ですら気付いていない噛みしめられた奥歯に気付くはずもない。常のごとくふぅんと鼻を鳴らし嘲笑う調子で、告げた。
「あるいは貴様の方が性質が悪いかもしれんな――この牝犬が」
 城之内は笑った。花のようにふわりと笑った。他人を罵るばかりで褒めるなどという発想がないどころかそんな言葉が辞書に存在することすら知らない海馬が瞠目する程度には美しい笑顔だった。
 噛みしめていた奥歯はゆるゆると解かれて言葉をなす。城之内の不意打ちの笑顔に動きを止めている海馬から靴下だけの片足を取り戻し、綺麗に笑んだまま。
「死ねよ」
「――ッ!?
 声を上げなかったのは流石と言うべきか、あるいは声にならない悲鳴というやつかもしれない。海馬は倒れこむようにしてベッドの上に蹲る。城之内は海馬の急所を渾身の力で蹴り込んだ足を伸ばし、蹲ることで晒された茶色い頭頂部を靴下に包まれた爪先で小突いた。
「死ねよっていうか死ね本気で死ね今すぐ死ね」
「きっさまァ……!!
 怨嗟の声を吐き出しながら顔を上げようとするが、ダメージは深いのか海馬の背中はぷるぷる震えており、城之内が踵落としの要領で後頭部に足を乗せれば容易に沈み込む。
 天下の海馬コーポレーション社長様を足蹴にしているという事実は爽快この上ない。しかし城之内の中で煮え滾っていた何かはついにあまりの怒りの熱量を受けて蒸発した、あるいは爆発した。足の裏で海馬の額あたりを捕らえ弾みをつけて蹴り飛ばす。予想通り仰向けに倒れ込む海馬に城之内は猫の姿勢で這い寄った。
「死ねっていうか、いーよ。俺が殺してやるから」
 海馬の反応は鈍い。城之内には滅多に見せない海馬の焦り顔をさらりと流して膝を割り開き間に潜り込む。注文の多い社長様が耳障りな何かを口にする前に、あるいはダメージから回復して起き上がる前にと素早くスラックスの前を寛げ、先刻蹴り込んだものを取り出す。
 ごめんなー痛かったなーかわいそうになーこんな奴の息子だからなー。などと馬鹿なことを考えつつ、未だ痛みに縮こまっているものをべろりと舐めた。海馬本人よりはこちらのほうが好きだ、何せチンコは喋らない。高笑いしないし色気がないだの慎みを持てだのと言って城之内を女扱いしない。
「待て、じょうのう、っ……!」
「っるせーぞ黙ってろ。お前を殺して俺も死ぬ」
 物騒な台詞ながら、城之内の口元は機嫌よく弧を描いていた。海馬からは見えないだろう。軽く力を入れるだけで痛むのか息を呑む海馬を慰めるように根元と袋を揉んで先端を吸う。図体と同じく無駄にでかいので萎えているぐらいがちょうどいいと頭の隅で考えるが萎えたままでも困る。何せ目的は海馬を殺すことなのだから。
 今のうちに全部口に含んでしまおうと城之内は大口を開けて海馬にかぶりつく。唾液を絡めて先端を舐め回し頬の内側で扱いて、時折先端に歯が当たるのはわざとだ。いちいち震える海馬の内腿が楽しい。口内で育っていく様をまざまざと感じながら城之内は顔に当たる横髪を耳に引っ掛けた。
「は……何のつもりだ……!」
 頭上からうるさいほうの海馬が問うてくる。好きなほうの海馬が復活するに比例して喋る余裕ぐらいは戻ってきたらしい。
 城之内はじろりと海馬を見上げた。ぷは、と口を離して息を吸う。
「言ったままだよ」
 口の中に残る感触を唾液と一緒に飲み込む。言葉の意味が分からないらしい海馬は放っておいて手の中でむにむに揉めば徐々に芯を持つ感覚。心中まであと少し。
 唾液を溜めた口の中に再び迎え入れる。空気と唾液を絡めて頭を揺らしてぐぽぐぽと下品な音をさせれば案の定硬度を増していく。本当に非現実的なテンプレートに沿った行為がお好きな社長様である。その社長様はといえば黙ったまま、時折眉根を寄せて城之内を見下ろしていた。殊勝なことに城之内の言葉の意味を考えているようだった。
 しばらく音を上げて舐め回して吸い上げて、根本や袋や会陰は手で擦って揉んで押す。口の中が唾液だけではない液体で潤って、じわじわと苦味が増していく。密かに笑って城之内は海馬を見上げた。氷に似た青が自分によって煽られた劣情に溶けて見下ろしている様が酷く愉快だ。
 いつもこれぐらいなら、もう少しだけ好きになれるというのに。平生の海馬を残念に思いながら、城之内は息の根を止めにかかった。激しく頭を振ってぬるぬる滑る両手で太い根本を扱く。
「っ、城之内、止めんか!」
 本体が今更喚くがもう遅い。じゅうううとわざわざ音を立ててきつく吸い上げてやれば舌先に苦く温い飛沫が散った。飲み込まないように気をつけながらしばらく吸い上げ、搾るように根本を擦り上げる。
「このっ、駄犬が……!」
 居丈高な台詞も息を乱しながらでは台なしである。萎えたものをそろりと口から解放し、城之内は海馬の胸に乗り上げた。溶けて水っぽい薄氷色を覗き込んでから口角を釣り上げ、かぱりと口を開く。
「……!」
 当然城之内からは見えないが恐らく舌の上に海馬の吐き出した精液が乗っているはずだった。声もなく動揺する海馬には大変満足だが、話の分からない馬鹿さ加減とともに宣言通り殺してやることにする。
 ガッと、音が鳴るほどの勢いで海馬の両頬を両手で掴み固定する。そしてほとんどメンチを切る要領で視線を合わせ、合わせたまま、ぱくりと口を閉じた。舌と口蓋で擦り合わせ、咀嚼し、嚥下する。海馬は視線を逸らさない。城之内も逸らさない。
 苦味だけ残る舌先をべ、と見せつけてから、海馬を殺した城之内は笑んだ。性質の悪い牝犬ですから。
「ハイ、死んだ」
 これから先海馬瀬人を生かす女なんて現れない。現れて堪るか。海馬瀬人を次代に生かすこの白く濁ったものは一生自分だけに吐き出されるべきだ、俺だってそのつもりなんだからあんまり調子こいてんじゃないぞ。
 果たして城之内の怒りの理由に気づいたのか否か。海馬は呆れた、あるいは諦めたように息を吐いて城之内の腰を引き寄せる。
「馬鹿者が。品がないわ」
「散々興奮しといてそれかよ。色気も品もない俺はいらねーってか?」
 海馬の腕が絡まる腰をずらして収まりどころを探すが、剥き出しの尻に当たる萎えて濡れた感触と質の良いスラックスの滑らかさに城之内は眉根を寄せた。よく考えるとスラックスを寛げただけの海馬に対し全裸に靴下だけで口淫に及んだ自分はなるほど、なかなかの牝犬っぷりかもしれない。かといってその呼称を了承する気は毛頭ないが。
「俺を殺して貴様も死ぬんだったな?」
「ん、そーだよ……だからさっさと、続き、」
「喜べ。俺が殺してやろう」
 ぞくりと腰が震えたのは耳にねっとりと注がれた海馬の声のせいか、ようやくまともに触れだした手つきのためか。普段からこのぐらいのテンションならもう少しマシに見えなくもないのだ。という考えは負け惜しみだという自覚があるので城之内は海馬の後ろ髪を引っ張って顔と顔の間に隙間を作った。つい先ほどまで自分に溶かされていたはずの薄氷は既に零度の熱を取り戻している。
 悔し紛れに整った鼻先に噛みつきながら、少なくとも海馬が城之内に殺されることに言及しない程度には存在を認めている事実も噛みしめる。あとは仕返しのように降ってきたキスと一緒に、もぐもぐごっくん。丸呑みした。