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好きなのに、どうして傷つけてしまうのか

 ばたばたと、水を散らすように白いシーツを蹴る。アッシュアッシュと名前を呼ばれ、子供らしい所作に微かな笑みを零しながらアッシュは振り向いた。シーツの上で腹這いになったルークの、子供のようにきらきらした瞳にぶつかる。
「アッシュ」
「……ああ」
「好き」
「知っている」
「えへへー」
 ほにゃり、と相好を崩してルークはごろりと転がった。アッシュが近寄ると仰向けになったルークは微笑みながら腕を伸ばす。誘われるまま、引き寄せられるように腕の中に納まってやる。緩んだ笑い声が再び聞こえてきて、色気のないそれを黙らせようとアッシュはルークの唇を自らのそれで塞いだ。
「ん……」
 中身も行動も子供然としているルークだが、こういうときの反応には背筋にぞくりと来るものがある。普段とのギャップもあるのだろうが、とろりと甘さに蕩けた翡翠の瞳に不覚ながらアッシュは酔いそうになる。呑まれる前に、アッシュはルークの服のボタンを外しにかかった。
「んぅ……っ、ん……」
 ルークは僅かに瞳を見開くが、深くなった口付けに嬉しそうに目を細めてアッシュの服に手を伸ばした。同じようにボタンを外していく。
 舌を絡めながら唇を離す。伝う銀の糸が月明かりだけが頼りの薄闇に艶かしく輝いた。口の端に伝うそれをアッシュは親指で拭い、蕩けた瞳に笑みを向ける。ボタンを外しはだけた胸に掌を滑らせれば、ルークもちいさく身を震わせて笑った。
「……好き」
「それしか言えねぇのか、テメェは」
「んっ……じゃ、ぁ……」
 胸の頂を摘まれ、ルークは喉を反らす。それでも視線はアッシュに注いだまま、笑みを浮かべたまま。
「……きもちいい」
「……上等だ」
 獰猛に笑って、アッシュはルークの首筋に噛み付くようにキスをした。びくりと震えるルークの脇腹を掠めてそのまま下肢に手を伸ばす。下着ごとズボンを抜き取り、晒されたものをゆるりと撫でた。
 笑みを浮かべる余裕がなくなったルークは頬に朱を上らせ、それに気付いたアッシュは、染まった頬に舌を這わせる。
「あ、っしゅ、……ん……はっ」
 撫でるだけだったものを握りこむと、ルークは力なく首を左右に振った。赤い髪がぱさぱさと白いシーツを叩く。アッシュは僅かに身をずらし、頬に這わせていた舌を今度は胸に這わせた。同時に下肢にやった手を上下させると、大袈裟なほどにルークは身を跳ねさせて喘ぐ。
「んゃっ、アッ、シュ……はっ、あ……!」
「『気持ちいい』んだろうが」
「ふぅうッ……」
 心なしか、というかどう聞いても楽しそう声がなんとなく気に入らず、ルークはを潤んだ瞳でアッシュを睨みつけてきゅっと唇を噛んだ。声出せ、とアッシュが言えば、やだ、とルークは返す。同じ顔でしばし睨み合った後、アッシュがよくない笑みを浮かべた。
 止めていた下肢の手の動きを早め、舌で胸の飾りを弾く。遊ばせていた残りの手で、今まで触れもしなかったほうの飾りを摘んだ。
「んんっ、ぅ、や……だ、……!」
「嫌じゃねぇだろ」
「っ……、ぁあ、あっ」
 抑えられていたルークの声はあっさりと零れ出し、アッシュの手の、舌の動きに感覚が振り回される。上下するアッシュの手がぬるりと滑り始めた。
「ゃ、もぅ……っ、で、ぁああッ……!」
 滲み出る先走りが立てる微かな水音が鼓膜を叩き、胸の突起に歯を立てられて、ルークはあっさりと欲を解放した。
 白濁に塗れた指先を舐め、アッシュは目を眇めて口の端を引き上げる。
「早ぇな」
「るさっ……んっ」
 アッシュは先ほど舐めた指を再び下肢に伸ばし、双丘の狭間へと滑らせた。ひくりと息づくそこに浅く挿し入れれば、ルークは軽く息を詰める。しかし慣れた行為にあまり苦痛を感じることもないのか、アッシュが指を奥に進めても喘ぐ以外の声がルークの口から漏れることはなく、僅かに強張った体もゆるゆると弛緩していく。
 指を二本、三本と増やし、言動とは不釣合いなほど丁寧にそこを解してから、アッシュはズボンの前を寛げて欲に駆られる自身を取り出した。ルークが熱に浮かされたように潤んだ瞳を向ける。
「も、ぅ……?」
「欲しいだろ?」
 膝裏に手を差し入れて持ち上げ、秘所を晒すように足を開かせてアッシュが問う。ルークはふわりと笑みを浮かべて、こくんと頷いた。
「ほしい」
 素直に答えるルークについ笑みを零し汗ばんだ額に唇を落としてから、アッシュは晒させた箇所に自身を宛がい、腰を進める。ルークの背が弓なりに反り、内壁が入り込んできたものを柔らかく締め付けた。また呑まれそうになって、アッシュは僅かに眉根を寄せた。は、と息を吐く。
「んくぅっ……、ん、アッ、シュっ!」
「……ああ」
 今にも泣きそうな、快感に震えた甘い声に呼ばれる。声の意味を知っていたから、アッシュは深く身を落とした。すぐにルークの腕が背に回され、縋り付かれる。同じ強さで、自分と同じであって全く異なる愛しい半身を抱き込みながら、アッシュは自らが、ルークが欲するままに腰を打ちつけた。
「はっ、あ、ぁああッ、アッ、シュ……あ、しゅ、ぅ!」
「っ……、ルーク……」
 ずちゅ、ぬちゅと水音が響きだすと、堪らないとでもいうようにルークが首を横に振った。限界が近いことを知らせるその動作は子供のようで、しかしあまりにも艶かしく、逆らわずアッシュは呑まれることにする。
 締まりなく開いて嬌声を上げ続ける唇を塞ぎ、ぐっとルークの中の一点を突く。見開かれた翠瞳から零れるぎりぎりで張り詰めていた水が零れた。背に回されていたルークの指先にぐっと力が篭る。アッシュ自身を締め付けてルークは達した。間を置かずアッシュもルークの中に放つ。
「んんんくぅっ……ふッ……!」
「ッ……!」
 びくびくと、ルークは余韻に身を震わせていたが、しばらくするとゆっくりと体の力を抜いた。涙に濡れた瞳の焦点をアッシュへと合わせ、ふにゃりと緩んだ笑顔を浮かべる。
「……いってもいい?」
「何をだ?」
「さっき、それしかいえないのかっていった」
 ああ、と苦笑して、アッシュはルークの唇に触れるだけのキスをした。
 ルークはアッシュの首に腕を絡める。さっきとちょっと違うけど、と前置いて、
「アッシュだいすき」
「ああ……」
 焔の髪に隠れたアッシュの背で、ルークの爪痕が紅い線を描いた。
    2006.3.30(好き過ぎる7のお題)