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目が合うと、どうしていいのかわからない

 オレンジのランプに照り映える、聖なる焔の紅。
 こっちが起きたことに気付いていないだろう俺のオリジナルは、ベッドの端に腰掛けて黙々と剣の手入れをしている。でもやっぱり気付いてるかもしれない。どうせ俺が起きていようが起きていまいが、気にするような奴じゃない。
 布団に潜ったまま背中に視線を注ぐ。焔に透ける、傷一つない綺麗な背中。でも胸にはいくつか傷があるのを知っている。こいつは絶対に敵に背中を見せないから、斬られるのは胸だ。
 あと、胸のなかにも傷がある。本人は気付いてないだろうけど、ふかいふかい傷がある。それは俺のせいでついた傷だと思う。(ああでもこいつに俺のせいでついた傷があるってなんか嬉しいかもしれない。変かな)
 シーツから腕を伸ばす。ランプに照らされてオレンジに染まったシーツがさらりと滑った。伸ばした指で、聖なる焔の紅を掴む。軽く引いてみたりもする。
「……なんだ」
 不機嫌面が振り向いた。不機嫌面はいつものことだけれど、眉間の縦皺はいつもよりは深くない。
 じぃっと翡翠の瞳を見つめてみる。髪を引っ張ってみたものの、特に何か言いたいことがあったわけでもないから、他にすることも思いつかない。
(目の色は、いっしょかな)
 普段は将来ハゲるんじゃないかと心配になるほどかっちり上げられている前髪も、今は下ろされている。自分の髪の色は劣化しているのか、ランプに照らされていなくてもオレンジがかっているけれど、瞳の色はたぶんおんなじ緑だ。
 ふんと息をついて、不機嫌面はまた前を向いてしまった。
(……なんかいってくれてもいいじゃん)
 ちょっかいをかけたのは自分だけれど、あっちからなにかしてくれてもいいはずだ。声をかけるとか、せめて言葉がなくても―……
 上半身を起こして、今度は強く髪を引いた。眉間の皺がさっきより深くなった不機嫌面が、再びこちらに向いた。
 おんなじ緑の距離を、詰める。
    2006.3.28(好き過ぎる7のお題)