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これだけは貸せません

 まったく高校生なんて下らない。
 と、授業後にサッカーゴールの片付けを教師から言いつけられただけで考えてしまう自分も下らない。皆守はアロマパイプを口から離した。
「おい、九ちゃん」
 こちらに気付かないフリをしているのは分かっている。八千穂とともに校舎内に引き上げようとする葉佩の背に声を投げつけた。ぎくりと肩を揺らして振り向く葉佩。じゃあ九チャン私先に戻ってるね、と言い置いて、八千穂は先を行く。
「まさかひとりだけ先に戻ろうなんて言わないよな」
「あ、ははは」
「笑ってんじゃねぇ。手ェ貸せ、手」
 乾いた笑みを浮かべていた葉佩はふうと溜め息をつく(普段はこっちがお前の行動に溜め息つかされてんだ、たまにはお前もついてみろ)そして渋々と近寄ってくると、サッカーゴールを掴んだ。そう重くもないので、二人もいればすぐに校庭の端へと片付けられる。
「俺の手は高くつくからな」
「なんだそりゃ」
「大事な手なんだぞ俺の手は。罠解除して、引き鉄引いて、秘宝を掴む手だ」
 そうかそうかと適当に相槌を打ち、皆守もサッカーゴールを掴む。金属のひやりとした感触。いくぞ、と声をかけようとして、眉間に皺を寄せた。
「……おい九ちゃん」
「なに」
「なんで小指立ててやがるんだ」
 はっきり言っておかしい。いや元から葉佩はおかしいが。
 そしておかしさはそのままに、葉佩は笑った。格好をつけたような、高校生らしからぬ(自分も大分高校生らしくないが)笑みだ。ギャグなのか真面目なのか、判別できない。こいつはいつもそうだ。
「小指だけは貸せないからな」
 そう言って小指を立てたままサッカーゴールを運んだ。





 この指は約束をする指だ。俺は約束をしない。だって守れないから。
    (俺は流浪のトレジャー・ハンター)
    2006.4.5