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ソトナカ
「行くのか」
「……………………は?」
昼休みの屋上。手すりに身を預けていた葉佩は、背後の皆守の声に振り返った。
「誰が? どこに?」
「オマエが。どこに行くのかまでは知らん」
「はぁ?」
見ているこっちが腹が立つほど訝しげな顔をしている。がじがじと頭を掻いて、皆守は独り言のように付け足す。「八千穂に言ったんだろ」どっか遠くに行くって。
「……ああ」
夜会んときな、とあっちも独り言のように付け足した。
見ているとじわじわと腹が立ってくるような、いつもの緩んだ笑顔で。
「なに? 俺がどっか行っちゃうと寂しいって?」
「誰がだ」
「甲太郎が」
「アホ」
即答するとあははと笑う。
葉佩は笑顔のまま、腹を預けていた手すりに今度は背を預けた。
「なんかな。どうせもうすぐ卒業だけど」
勉強しに来たワケじゃないし、秘宝が見つかったらたぶんすぐに。
皆守は無言。葉佩も気にせず続ける。こうなると完璧に独白だ。
「みんなと一緒にいるのって楽しいんだけどさ、ときどき俺の居場所はここじゃないって思うんだよなー」
葉佩は相変わらず笑顔だった。
皆守がいつ見ても、葉佩は誰かと共にいる。今のように笑って。隣にいるのは、例えば自分だったり八千穂だったり、執行委員だったりする……かつて銃を向けた。
「あんなにヘラヘラしてるのにか」
「あはは、失礼だなー甲太郎ー」
つまり、葉佩は常に人の輪の中心にいるのに、疎外感を抱いているということになる。人の輪の外にいて自主的に疎外感を抱いている自分と違って。
「突き詰めると、俺の居場所は秘宝のあるとこなんだろうけど」
輪の外にいて、『ここ』から動けない自分と違って。
コイツは、輪のど真ん中にいながら『ここ』にはいられないのだ。
「……そうか」
ヘラヘラした笑顔から上履きの爪先へと視線を転じ、皆守は息を深く吸い込んだ。アロマパイプからラベンダーの芳香が肺に流れ込む。
でもさー、と葉佩の声が耳元を滑る。
「甲太郎だってそうだろ」
「…………はァ?」
「なに、なんでそんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔すんの?」
当たり前だ。自分が『ここ』から動けるなんて露ほども思っていなかった。
「みんなそうだろ。高校なんだから。俺の場合は他の連中より先にいなくなるってことで」
「……そうかもな」
「そうかもって。他にないだろ?」
それとも甲太郎は高校四年生でもやるつもりなのかな~?
完全に人をおちょくった声。御丁寧にも、見ると即行で蹴り飛ばしたくなる笑顔つきだ。逆らわず、皆守は葉佩の腹を蹴り飛ばした。「ぐっ」という奇声と共に葉佩がよろめくが、まァ顔面でなかっただけありがたいとでも思っといてくれ。
「……った~! ちょっ、甲太郎、コレ遺跡潜ったときに使ってくんない?」
「相手がオマエだったらいくらでもやってやる」
「ひっどー。愛がなーい」
「あるか、ンなもん」
へたり込む葉佩をそのままに、校舎内へ通じる扉に足を向けた。
「こーたろー」
「行くぞ九ちゃん。次の授業は雛川だからな」
待って待ってと情けない声をあげながら追いついてくる。
遺跡に潜るときですら、一人ではないのに。
今この瞬間にも、コイツは『ソト』にいるのだろうか。
「……………………は?」
昼休みの屋上。手すりに身を預けていた葉佩は、背後の皆守の声に振り返った。
「誰が? どこに?」
「オマエが。どこに行くのかまでは知らん」
「はぁ?」
見ているこっちが腹が立つほど訝しげな顔をしている。がじがじと頭を掻いて、皆守は独り言のように付け足す。「八千穂に言ったんだろ」どっか遠くに行くって。
「……ああ」
夜会んときな、とあっちも独り言のように付け足した。
見ているとじわじわと腹が立ってくるような、いつもの緩んだ笑顔で。
「なに? 俺がどっか行っちゃうと寂しいって?」
「誰がだ」
「甲太郎が」
「アホ」
即答するとあははと笑う。
葉佩は笑顔のまま、腹を預けていた手すりに今度は背を預けた。
「なんかな。どうせもうすぐ卒業だけど」
勉強しに来たワケじゃないし、秘宝が見つかったらたぶんすぐに。
皆守は無言。葉佩も気にせず続ける。こうなると完璧に独白だ。
「みんなと一緒にいるのって楽しいんだけどさ、ときどき俺の居場所はここじゃないって思うんだよなー」
葉佩は相変わらず笑顔だった。
皆守がいつ見ても、葉佩は誰かと共にいる。今のように笑って。隣にいるのは、例えば自分だったり八千穂だったり、執行委員だったりする……かつて銃を向けた。
「あんなにヘラヘラしてるのにか」
「あはは、失礼だなー甲太郎ー」
つまり、葉佩は常に人の輪の中心にいるのに、疎外感を抱いているということになる。人の輪の外にいて自主的に疎外感を抱いている自分と違って。
「突き詰めると、俺の居場所は秘宝のあるとこなんだろうけど」
輪の外にいて、『ここ』から動けない自分と違って。
コイツは、輪のど真ん中にいながら『ここ』にはいられないのだ。
「……そうか」
ヘラヘラした笑顔から上履きの爪先へと視線を転じ、皆守は息を深く吸い込んだ。アロマパイプからラベンダーの芳香が肺に流れ込む。
でもさー、と葉佩の声が耳元を滑る。
「甲太郎だってそうだろ」
「…………はァ?」
「なに、なんでそんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔すんの?」
当たり前だ。自分が『ここ』から動けるなんて露ほども思っていなかった。
「みんなそうだろ。高校なんだから。俺の場合は他の連中より先にいなくなるってことで」
「……そうかもな」
「そうかもって。他にないだろ?」
それとも甲太郎は高校四年生でもやるつもりなのかな~?
完全に人をおちょくった声。御丁寧にも、見ると即行で蹴り飛ばしたくなる笑顔つきだ。逆らわず、皆守は葉佩の腹を蹴り飛ばした。「ぐっ」という奇声と共に葉佩がよろめくが、まァ顔面でなかっただけありがたいとでも思っといてくれ。
「……った~! ちょっ、甲太郎、コレ遺跡潜ったときに使ってくんない?」
「相手がオマエだったらいくらでもやってやる」
「ひっどー。愛がなーい」
「あるか、ンなもん」
へたり込む葉佩をそのままに、校舎内へ通じる扉に足を向けた。
「こーたろー」
「行くぞ九ちゃん。次の授業は雛川だからな」
待って待ってと情けない声をあげながら追いついてくる。
遺跡に潜るときですら、一人ではないのに。
今この瞬間にも、コイツは『ソト』にいるのだろうか。
- 2005.12.29
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