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貴方は空に、私は海に
こんにちは、お久しぶりです。今、どうしてますか?(きっとまだ、オーブで働いてるんでしょうけど)
俺は元気です。あの時はそんな余裕なかったけど、今はくだらないことで友達と笑い合ってます。俺がこうしてられるのは、あなたのおかげです。
今でもよく、あなたのことを思い出します。
今日も……
「あ、民間用」
弾を撃ち切って空になった弾倉を交換していたシンが、遠く洋上を見つめながら呟いた。同じように撃ち終わったレイも、その呟きに顔を上げた。
水平線に隠れそうなところを、一機のMSが飛行している。
「レイスタか……」
「アレってフライトユニットついてたっけ?」
「改造したんじゃないのか」
「かなぁ。戦時中だもんな」
中距離飛行ぐらいできないと実戦じゃ使えないよな、と続けるシン。それは俺のことを言ってるんだろうかと愛機ザクファントムを思い浮かべながら、レイは軽くシンを睨んだ。ルナマリアがここにいたら、ザクを馬鹿にしたといって激昂していたにちがいない。
「どうしたんだよ、レイ。怖い顔して」
「いや……。『アレ』はいいのかと思ってな」
自分が無神経なことを言ったのに気付かないシンに、レイはよっぽど言ってやろうかとも思ったが、別の質問をすることにした。今度ルナマリアにそれとなく言っておいてやろうと思いつつ。
「『アレ』?」
「レイスタはモルゲンレーテが開発に協力したんじゃなかったか?」
「……ああ」
俺のオーブ嫌いのことを言ってるのか。
シンはサイドテーブルに銃を置き、耳当てとゴーグルを外しながら、
「レイにしては珍しい勘違いだな。レイスタはジャンクギルド製だろ」
「……そうだったか」
「ま、設計したのは元モルゲンレーテの技術者らしいけどな。二年前連合が攻めてきたときに難民になってギルドに拾われたって話だし。どっちかというと親近感わくけど。アレは」
俺と一緒で。
「……そうか」
「別に俺だってオーブの何でもかんでもが嫌いなわけじゃないし」
「……例えば?」
レイも銃を置きながら、シンの顔を見つめた。普段から無秩序に跳ねているシンの髪は、潮風に吹かれて更に乱れている。
自分の頭など気にも留めないシンは、そーだなーと呟きながら柵に寄りかかった。
「自分の家とか、マユと行った公園とか、近所のゲーム屋とか。あと」
歯切れ悪く言葉を切り、真面目なカオでレイの向こうに見える入り口に視線を走らせる。
「……ルナ、まだ帰ってこないよな?」
「……まだ無理だろうな」
射撃場で黙々と訓練規定をこなしていたシンとレイの元に「暗い!」と殴りこんできたルナマリアは、二人を半ば強引にデッキまで連れ出し、自分も加わりそこで規定をこなし始めたのだが。
例によって射撃の成績の芳しくないルナマリアは、隣にいたシンにあたり始め、挙句「アンタの触覚から出る電波のせいであたしの弾が当たらないのよ!」と喚きだす始末。
さすがに見かねたレイが「隊長に教わったらどうだ」と提案すると、「そうね! たまにはレイもいいこと言うじゃない!」と態度を百八十度回転させ、アスラン・ザラを探すべく、自分の触覚を揺らしながら意気揚々と艦内に戻っていった。
それがおよそ五分前。アスラン・ザラもあの広い額で不審な電波をキャッチできるらしく、あのホーク姉妹が探しても捕まえるのに十分はかかる。
科学的根拠に欠けるレイの返事だったが、シンはほっと息をついて水平線を見つめ、続きを話し始めた。レイスタはとっくに見えなくなっている。
「オーブって国自体も、オーブ軍も、ぶっ壊したいほど嫌いなんだけどさ。……ひとりだけ大事な人がいるんだ。ルナが聞いたら『何それ』とか言うかもしんないけど」
「大事な……」
「うん」
本当に大切そうに、穏やかに微笑みながらシンは答える。オーブに関しての話題でシンが落ち着いているのがレイには非常に珍しく、興味をそそられた。
「どんな人だ?」
「オーブの将校さん。家族亡くしてすぐの俺に声かけてくれて、プラントに上がるまでのあいだ、ずっと面倒見てくれたんだ」
「……そうか」
「今、どうしてるかな……あのひと」
遠く、海と空を見透かすように、シンは目を細めた。
その幼くあどけない表情に、レイの背中に冷たいものが走る。
――オーブの将校なんて、戦時下の今ならひょっとすると……
「シン」
「ん?」
レイは近付いて、シンが振り返り切る前に背後から腕の中に閉じ込めた。
「ちょっ……何?」
「いや」
もしかすると、お前がその手で討つことに――最悪、もう討ってしまっているかも知れないなんて、言えるはずがなかった。
可能性は限りなく低いし、それならそれでシンに余計な考えは持たせたくない。
「レーイ。放せよ」
「シン」
「だから何だよ」
「お前が何をしても、俺はずっと見ていてやる」
「はぁ? 訳わかんな……ん!?」
視界が暗くなり、唐突に唇を塞がれた。
あまりにも脈絡のない行動に暴れるタイミングを外したシンが目を見開いていると、扉の開く音が聞こえ、レイの肩越しにデッキに上がってきた人物と目が合った。
「……シ、ン? レイ?」
「ちょっとー。人の目の前でイチャつかないでくれる?」
呆然と呟くアスランと、「またか」といった様子のルナマリアの姿を認め、慌ててシンは身を捩る。意外にもあっさりとレイはシンを解放し、何事もなかったかのように振り向く。
「早かったな、ルナマリア」
「まぁねー。副艦長が捕まえててくれたから」
ルナマリアの台詞に、アスランは溜め息を漏らした。副艦長・アーサーの概ねどうでもいいような話に付き合わされていたアスランは、身の危険を感じたものの話を中断させることもできず、そうこうしているうちに予想通り現れたルナマリアに強引に連れ去られてきたのだった。(ちなみにアーサーはルナマリアの剣幕に押され、あっさりと身を引いた)
「もうちょっとゆっくり来たほうがよかったかしら?」
「ルナマリアっ!」
からかい口調のルナマリアに顔を紅潮させたシンは声を荒げ、平然としているレイを睨みつける。
「レイのバカっ!」
「バカだろうとなんだろうと、さっきの言葉に偽りはないからな、シン」
「だからっ、さっきのって――」
「なんだ?告白か?」
若いっていいなぁと付け足しながら、アスランも悪乗りしてくる。
「アスランさんまでっ…!」
「なによ今更ー。アンタたち公認カップルじゃない」
「ちがう! つーかいつの間にそうなってんだよ!」
「アカデミーのときからだけど」
「なっ」
「いいじゃないかシン。今のうちだけだぞ」
「あーもう! なんでそういうことになるんだよ!」
自分の意見を通すことを諦め、シンは空を仰いだ。
……今日も皆と下らない話をして、あなたのことを少し思い出しました。
最近情勢が悪いから、心配してます。
どうかくれぐれも気を付けて、お仕事頑張って下さい。
俺は元気です。あの時はそんな余裕なかったけど、今はくだらないことで友達と笑い合ってます。俺がこうしてられるのは、あなたのおかげです。
今でもよく、あなたのことを思い出します。
今日も……
「あ、民間用」
弾を撃ち切って空になった弾倉を交換していたシンが、遠く洋上を見つめながら呟いた。同じように撃ち終わったレイも、その呟きに顔を上げた。
水平線に隠れそうなところを、一機のMSが飛行している。
「レイスタか……」
「アレってフライトユニットついてたっけ?」
「改造したんじゃないのか」
「かなぁ。戦時中だもんな」
中距離飛行ぐらいできないと実戦じゃ使えないよな、と続けるシン。それは俺のことを言ってるんだろうかと愛機ザクファントムを思い浮かべながら、レイは軽くシンを睨んだ。ルナマリアがここにいたら、ザクを馬鹿にしたといって激昂していたにちがいない。
「どうしたんだよ、レイ。怖い顔して」
「いや……。『アレ』はいいのかと思ってな」
自分が無神経なことを言ったのに気付かないシンに、レイはよっぽど言ってやろうかとも思ったが、別の質問をすることにした。今度ルナマリアにそれとなく言っておいてやろうと思いつつ。
「『アレ』?」
「レイスタはモルゲンレーテが開発に協力したんじゃなかったか?」
「……ああ」
俺のオーブ嫌いのことを言ってるのか。
シンはサイドテーブルに銃を置き、耳当てとゴーグルを外しながら、
「レイにしては珍しい勘違いだな。レイスタはジャンクギルド製だろ」
「……そうだったか」
「ま、設計したのは元モルゲンレーテの技術者らしいけどな。二年前連合が攻めてきたときに難民になってギルドに拾われたって話だし。どっちかというと親近感わくけど。アレは」
俺と一緒で。
「……そうか」
「別に俺だってオーブの何でもかんでもが嫌いなわけじゃないし」
「……例えば?」
レイも銃を置きながら、シンの顔を見つめた。普段から無秩序に跳ねているシンの髪は、潮風に吹かれて更に乱れている。
自分の頭など気にも留めないシンは、そーだなーと呟きながら柵に寄りかかった。
「自分の家とか、マユと行った公園とか、近所のゲーム屋とか。あと」
歯切れ悪く言葉を切り、真面目なカオでレイの向こうに見える入り口に視線を走らせる。
「……ルナ、まだ帰ってこないよな?」
「……まだ無理だろうな」
射撃場で黙々と訓練規定をこなしていたシンとレイの元に「暗い!」と殴りこんできたルナマリアは、二人を半ば強引にデッキまで連れ出し、自分も加わりそこで規定をこなし始めたのだが。
例によって射撃の成績の芳しくないルナマリアは、隣にいたシンにあたり始め、挙句「アンタの触覚から出る電波のせいであたしの弾が当たらないのよ!」と喚きだす始末。
さすがに見かねたレイが「隊長に教わったらどうだ」と提案すると、「そうね! たまにはレイもいいこと言うじゃない!」と態度を百八十度回転させ、アスラン・ザラを探すべく、自分の触覚を揺らしながら意気揚々と艦内に戻っていった。
それがおよそ五分前。アスラン・ザラもあの広い額で不審な電波をキャッチできるらしく、あのホーク姉妹が探しても捕まえるのに十分はかかる。
科学的根拠に欠けるレイの返事だったが、シンはほっと息をついて水平線を見つめ、続きを話し始めた。レイスタはとっくに見えなくなっている。
「オーブって国自体も、オーブ軍も、ぶっ壊したいほど嫌いなんだけどさ。……ひとりだけ大事な人がいるんだ。ルナが聞いたら『何それ』とか言うかもしんないけど」
「大事な……」
「うん」
本当に大切そうに、穏やかに微笑みながらシンは答える。オーブに関しての話題でシンが落ち着いているのがレイには非常に珍しく、興味をそそられた。
「どんな人だ?」
「オーブの将校さん。家族亡くしてすぐの俺に声かけてくれて、プラントに上がるまでのあいだ、ずっと面倒見てくれたんだ」
「……そうか」
「今、どうしてるかな……あのひと」
遠く、海と空を見透かすように、シンは目を細めた。
その幼くあどけない表情に、レイの背中に冷たいものが走る。
――オーブの将校なんて、戦時下の今ならひょっとすると……
「シン」
「ん?」
レイは近付いて、シンが振り返り切る前に背後から腕の中に閉じ込めた。
「ちょっ……何?」
「いや」
もしかすると、お前がその手で討つことに――最悪、もう討ってしまっているかも知れないなんて、言えるはずがなかった。
可能性は限りなく低いし、それならそれでシンに余計な考えは持たせたくない。
「レーイ。放せよ」
「シン」
「だから何だよ」
「お前が何をしても、俺はずっと見ていてやる」
「はぁ? 訳わかんな……ん!?」
視界が暗くなり、唐突に唇を塞がれた。
あまりにも脈絡のない行動に暴れるタイミングを外したシンが目を見開いていると、扉の開く音が聞こえ、レイの肩越しにデッキに上がってきた人物と目が合った。
「……シ、ン? レイ?」
「ちょっとー。人の目の前でイチャつかないでくれる?」
呆然と呟くアスランと、「またか」といった様子のルナマリアの姿を認め、慌ててシンは身を捩る。意外にもあっさりとレイはシンを解放し、何事もなかったかのように振り向く。
「早かったな、ルナマリア」
「まぁねー。副艦長が捕まえててくれたから」
ルナマリアの台詞に、アスランは溜め息を漏らした。副艦長・アーサーの概ねどうでもいいような話に付き合わされていたアスランは、身の危険を感じたものの話を中断させることもできず、そうこうしているうちに予想通り現れたルナマリアに強引に連れ去られてきたのだった。(ちなみにアーサーはルナマリアの剣幕に押され、あっさりと身を引いた)
「もうちょっとゆっくり来たほうがよかったかしら?」
「ルナマリアっ!」
からかい口調のルナマリアに顔を紅潮させたシンは声を荒げ、平然としているレイを睨みつける。
「レイのバカっ!」
「バカだろうとなんだろうと、さっきの言葉に偽りはないからな、シン」
「だからっ、さっきのって――」
「なんだ?告白か?」
若いっていいなぁと付け足しながら、アスランも悪乗りしてくる。
「アスランさんまでっ…!」
「なによ今更ー。アンタたち公認カップルじゃない」
「ちがう! つーかいつの間にそうなってんだよ!」
「アカデミーのときからだけど」
「なっ」
「いいじゃないかシン。今のうちだけだぞ」
「あーもう! なんでそういうことになるんだよ!」
自分の意見を通すことを諦め、シンは空を仰いだ。
……今日も皆と下らない話をして、あなたのことを少し思い出しました。
最近情勢が悪いから、心配してます。
どうかくれぐれも気を付けて、お仕事頑張って下さい。
- 2005.5.18
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