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兄さんがなにか言いたいようです

    090313 (pachi:090313~090405)

「お前らあれだよ?
俺のプロフィールにさあ、“嫌いなもの:幽霊”ってあるけどさあ、なんか勘違いしてね?
俺は幽霊が嫌いなだけであって、断じて、一言も! 幽霊が怖いとは言ってないからね。
嫌いと怖いは違うからね。
あれじゃん、だって幽霊ってねちねちしてるじゃん。
呪ったり憑いたり暗闇から急に出てきたりしてさあ、あーゆーのよくないと思うよ俺は。
そういうとこ好きになれないよねあいつね」
「あ、兄さんの後ろに白い着物の女が」
「ガントレットハーデス!」
「…………」
「いや違うよ、今のはほら、悪霊退散的な。
そんなん怖いわけねーだろ? だって俺あれだよ、いい歳して“死神”とか言われてるんだよ?」
「あ、兄さんの後ろに白い、」
「インフェルノディバイダー!」
「ズェアアアアア!」
「仮面の男が」
    ( ◇)<もっと素直にならなくては駄目だぞ!
    需要? 知らね!

SAN値降下中

    090316 (pachi:090316~090405)

「おはよう、おにいちゃん」

 にっこりとげっそりが交錯。次の瞬間「ヘルズ!」の声と繰り出された拳によって均衡は破られたが、残念ながら兄の拳が弟の顔面にめり込むことはなかった。代わりにぞわわわわ!っと兄の腰周りを駆け抜ける怖気。
 兄の腰に絡みつくことで襲来する拳を回避した弟は、うっとりと目を細めて頬を寄せた。どこにとはいわない。
「おいコラ、ジン、止めなさい!」
「あ、兄さんの……勃ってる」
「そりゃ朝だしね、お兄ちゃんもまだ若いしね! つーかどっからツッコミ入れたらいいんだよ!」
「突っ込みたいの? いいけどまだ待って、先に兄さんの飲ませて……」
「気持ち悪いこと抜かすな! なんでそんなとこだけちゃんと聞いてんのお前!? ちょ、コラっ……」
「んぅ」
「おい……っ」
「ん、ん」
「……は、止めろ、って、ジン!」
「ん、ぷは……でも兄さん」
「あ!?
「口ばっかりで抵抗しないんだもん」
「…………」
 にっこりとむっつりが交錯。次の瞬間「あーっ、ちくしょう!」の声とぎらぎら光る瞳によって均衡は破られたが、残念ながら兄が弟を振り払うことはできなかった。代わりにぎしりと二人分の体重を受け止めるベッドの悲鳴。
 弟を押し倒すことで形勢を逆転した兄は、不服そうに眉根を寄せて唇を落とした。どこにとはいわない。
    朝っぱらから正気の沙汰じゃない!
    ヒント:アルルートバッドエンド

ぱんつじゃないからはずかしくない?

    090405 (pachi:090405~090715)

「ジン、お兄ちゃん前からずっと気になってることがあるんだけどな……」
「なあに兄さん、急に改まって」
「お前のそのインナーが全身タイツなのは周知の事実だ、いっそ構わん。
 しかしそれが全身タイツなら男なら一度は夢見るパンスト破りというプレイに発展せざるを得ないわけだ」
「そうだね、いちいち脱いでられないし」
「いや破る準備とかしなくていいぞ今やろうっていってるんじゃないからな。
 だいたいお前分かってねーよ、自分の手で破るところが燃えるんじゃねーか。
 破られる側が自分から進んで破ったりしたらなんか萎える」
「そうなの? じゃあ次からは兄さんがビリビリに引き裂いてくれるのを待つことにするね」
「おう。
 で、破るのはいいとしてお前……タイツの下には穿いてるのか?」
「……改まって何を訊くのかと思ったら」
「ばっかお前、重要な問題だぞ!
 もし穿いてるとしたら破ってからあれじゃん、手間取ったりさあ、ちょっと萎えるじゃん。
 逆にもし穿いてないとしてだ。最中はいいぞ、燃える。
 けど常識的に考えるとだな、いい歳した男が全身タイツで下着穿いてませんとかどう考えても変態だろ。
 普通に逮捕されるレベルだろ」
「大丈夫、僕が逮捕する側の人間だから」
「全然大丈夫じゃねーよ。何、お前やっぱり穿いてないの?」
「兄さんってば戦闘中にじろじろ僕のお尻見てるから知ってるかと思ってたのに……」
「だって気になるだろ!
 もし穿いてたらタイツのラインに出るかと思ったのにその制服全ッ然パンチラしねぇし!」
「……捲ってみる?」
「いや、パンチラっつーのは自然に捲れるからいいんだ。 自分の手で捲ったら小学生のスカート捲りじゃん。
 中二は否定しねーけどさすがにそこは譲れないからね」
    ロマンと紙一重
    あたまのなかあったかめ兄弟シリーズと題することにしました。

オレンジ×ハニー

    090405 (pachi:090405~090715)

 オレンジ色のお兄ちゃんはいつもはちみつ色の弟を脇に抱えています。
 それを不思議に思っていたウサギさんはある日ついに訊ねました。
 あなたはどうしてもいつもその子を抱えているの?
 するとオレンジ色のお兄さんは明るく笑って答えました。
 ああ、これか。俺の非常食。
 非常食と呼ばれたはちみつ色の弟は、抱えられたままとろけんばかりに笑うばかりです。
 ウサギさんはわけがわからず眉をひそめます。するとお兄ちゃんは弟をそのへんに置いて、
 まあ見てろって。ウサギ、一戦付き合ってくれよ。
 といいました。
 わけがわからないまま、ウサギさんは一戦付き合ってやりました。
 遠慮しなくていいぜ、などとお兄ちゃんがいうものですから、カボチャもゲオルグも大砲も大盤振る舞いです。
 体力のなさかげんに定評のあるお兄ちゃんは目立った抵抗もせず、あっさりとやられました。
 これでどうするのかしらとウサギさんが思っていると、弟がそろそろとお兄ちゃんに近寄っていきました。
 ずたぼろのお兄ちゃんを弟は心配そうに見下ろします。
 そんな弟に笑いかけながらお兄ちゃんは手を伸ばしました。
 ジン。
 するとどうでしょう、お兄ちゃんはいきなり術式を解放し、そのまま弟を闇で食ってしまったではありませんか。
 これにはさすがのウサギさんもびっくりです。
 な、非常食だろ。
 お兄ちゃんは満足げに笑っています。
 非常食の意味は分かりましたが、はちみつ色の子でなければならない理由がちっとも分かりません。
 なのでウサギさんはさらに訊いてみました。
 別にその子に限らなくても、他の子でもいいんじゃなくて?
 たしかに、これが次に食えるまで待たなきゃなんねーのがめんどくせーけど。
 お兄ちゃんはぐったりしている弟をまた脇に抱えながら、やっぱり笑っていました。
 こいつが一番甘くてうまそうだったからな。
    オレンジ色のお兄ちゃんが爽やかで明るいのにやってること酷かったらもえる!
    カラーズですいません。

黒い犬と白い猫

    090525 (memo)

「――触るな」
 小気味のいいことに、ぱしん。過剰に埋まる距離を拒絶で引き離す音。
 振り払われた手は何の痛痒も感じはしないが、ラグナはまじまじと手を眺めた。伸ばした先は肩、厳密に言えばまだ触れてもいない。次いで視線を移せば、澄んだ金色がこちらを睨めつけてきている。
 ふわふわとした溶けて消えてしまいそうな白の中、浮かぶ金色は何かに似ていた。なんだっけなあ。考えるともなしに考えながらラグナはうっすらと笑う。
「何がおかしい」
 お気に障ったのか、ジンが身構える。ふわりと広がる白の髪はちかちか光って、美しい景色に一瞬混じる既視感。ああ、はいはい、
「猫」
「……何の話だ」
 ジンの眉間が深い縦皺を刻む。そこに浮かぶ感情は不可解、否、不愉快。
「ぶわって毛ぇ逆立ててる猫みてぇだな」
 瞬間、
 ラグナは軽く顎を引く。抜刀、眼前を薙ぐ氷刃に持っていかれたのは髪の毛一筋。切り落とされた黒髪がはらはらと落っこちる。
 抜くが速ければ納めるも速い。そりゃそうだろうなあ。だってこいつあれだもん。
「貴様、」
「斬ればよかったじゃねぇか。斬れただろ?」
 憎悪がかたちをとったような言葉も表情も、しかしジンはラグナのひとことのもとに詰まらせてしまう。猫の目のような金色は揺らぎもしないが、そんなことはないだろう。ラグナはさっき引いた顎を突き出して、息がかかるほど近くまで顔を寄せる。ジンは逃げようとして――堪えた。
 覗き込めど真っ直ぐに見据えてくる金色。揺れるか揺れないか、そもそもそれ以前の話だ。ジンは睨みつけているつもりかもしれないが、この愚直なまでに直線の視線。手を振り払ったときもそうだ、
「捨てておけばいいのに」
 本当に。失せろ失せろと喚いても失せない相手なら、自分から捨て置けばいいのだ。それなのにこのジンときたら。
「もうお前、落ちてるだろ――俺に」
 猫の目が、揺らいだ。
    鬼畜可愛い黒い人と清廉潔白白い子
    初黒白。

彼を、殺さなければ

    090629 (memo)

 月が落ちてくる。
 そういって泣いたのは誰だっただろう。自分だったか、それともあいつだったか。兄ではない。兄は意味わかんねーよ、とか、そんなわけねぇだろ、とか、呆れながら、それでも泣きつく誰かを乱暴な手つきで慰めていた。
 あのやさしい腕。うで。乱暴だけれどあたたかいそれ。

 あか の中に ころがって
 無骨な剣を 握って
 くろい けもの の輪郭で

 しつこくじゃれつく自分をやわらかく押しのけた
 泣きじゃくっていれば何もいわずに触れてくれた

 あの

「――――」
 眩しい。夜空の月があまりにも眩しい。綺麗で綺麗で涙が止まらない。黒い夜空に白くやさしくやわらかく輪郭を描く天体。広い宇宙の一粒にしか過ぎないそれはひたむきに空を塗り替えようとしているようにも見える。冷たい空をやさしいいろに。そんなわけがないのだけれど。
 唯一動く右腕で視界を塞ぐ。あの白が目を灼くのだ。ちがう、本当は直視できない。
 そんなことはできはしない。無駄なのだ。たった一粒の白は広大な夜空であまりにも脆弱に輝く。ゆえに強く美しい。だから胸が痛い、涙が。
「にいさん」
 殺さなければならない。殺してあげなければならない。兄さんだってそれを望んでいるのだから。でもできない。
「にいさん、にいさん」
 生まれる。もうすぐ生まれる。
 幾度でも殺そう。この手で屠ってみせる。
 けれどできない。
 だからといって止めるつもりはない。兄さんを殺すのは自分だから。他の誰でもない。でも、できない、と知っていて、何度も何度も刀を振るって、そんなことはもう無理だとも思う。あの月のように美しくあろうとは思わないけれどひたむきに強くあることもできない。涙が、
「――兄さん」
 これは誰の涙だろう。これは誰の思考だろう。落ちてくるあの白い光。こわい、あんなにつよくうつくしいものはこわい。でもあの強さを手に入れなければ兄を殺すことはできない。殺さなければ、自分は、彼を、殺さなければ――

 さくりと草を踏む音。


「本当の英雄になりたくはなくて?」


 現れたのは月の遣い、だったのかも知れない。
    ジンストーリートゥルーEDより